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クシヒゲツツシンクイ

木くい虫 vol.38 No.1 (2012)

kikuimushi38-1.jpgツツシンクイ科は体が円筒形で上翅を含めてキチン化が弱く軟弱な感じのするコウチュウである。全世界で50種程度が記載され、日本には6種(コバネ、ムネアカホソ、キイロホソ、オオメ、ツマグロ、クシヒゲ)が分布しているだけの小さな科である。この科の昆虫は穿孔虫であり木材に関係が深いが、これらの昆虫を知っている読者は少ないであろう。

写真はクシヒゲツツシンクイという種であり、左が雌、右が雄である。名前のとおり雄の触角は櫛状(櫛髭)である。図鑑によれば本種の体長は6~18㎜ となっており、写真の雌は18㎜ であるので本種のうちでは最大級の個体であろう。本種は山地の伐採木に集まることが知られているが、少ない種であり特に雄は極めて稀である。雄をほとんど見ることができないのは雌雄の比率が偏っているのではなく、雄があまり伐採木に来ない習性によるらしい。一方、雌は産卵に訪れる伐採木や倒木上で見ることができる。本種は樹種の選好性があまり無く広葉樹にも針葉樹にも穿孔するが、個体数が少ないので樹木の害虫として問題になることはほとんど無いものと思われる。筆者は、25年ほど前の5月末に長野県木曽福島町(現木曽町)にあったチップ工場の土場で本種を採集した。その土場では複数の雌個体を観察できたが、雄は写真の1個体のみであった。

筆者は、ツツシンクイ科の昆虫ではもう1種ツマグロツツシンクイを採集している。北海道、長野県、京都府で本種を観察できたが、いずれの個体も雌であり未だ雄を見たことがない。前種と同様に雄を見つけることは極めて困難である。

近頃は山地の土場が少なくなり、ツツシンクイ科昆虫の観察や採集はさらに困難になっているようである。筆者の標本箱に納まっているこれら2種の標本は今では貴重なものになってしまったが、これらの種は今でもどこかにひっそり棲息しているであろう。

(M・H)

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