木材保存誌コラム

ホーム > 木材保存誌コラム > みちくさ > 自然相手

木材保存誌コラム

自然相手

みちくさ vol.41 No.1 (2015)

一昨年末、大雪が全国に降った。とくに普段あまり雪の降らない地域で、山奥の集落が孤立しているとのニュースが随分あった。

これまで北海道、富山、秋田と雪国に長く住んできたので、雪にはそう驚かない。ただ、雪質とその降り方、融け方は地域で随分異なる。同じ秋田県ですら「県南の雪は上から、秋田は横から、能代は下から降る」という表現がよくされるくらいだ。

かつてあった豪雪では「38」「56」というのが有名である。これらの時の気圧配置も今回と同様で、日本海北部からオホーツク海に進んだ低気圧(これを「爆弾低気圧」などと呼んでいる)が発達して停滞し、強い西高東低の冬型気圧配置が長く続いたことによる。

1980年末から翌年3月にかけてのものが56豪雪で、筆者はそれに遭遇した。富山では秋田県南と似て、湿った重い雪が、黙ってシンシンと降る。住まいは市中にあったのだが、朝起きてみると、前日には何もなかった地面に、一晩で1m も積もっており、車がすっぽり埋まっていたのにはさすが驚いた。このときの富山市の最深積雪量は160cm だそうだ。

これを契機に雪と木造住宅を総合した研究調査がいくつか進められ、建築学会大会ではPD(パネルディスカッション)が開催された。富山県では「雪に強い住宅づくり研究調査」が行われ、筆者らも積雪荷重量の評価とクリープによる変形挙動把握のため、小規模木質構造体を設計・製作し、それを積雪荷重下に放置して変形の経時変化を追った。

観測は1983~84年に行った。そのときの屋根上最深積雪は120cm に近く、それなりのデータが得られた。これを建築学会の大会で発表した。

このような研究は皆無だったから「これは行ける」と考え、研究延長の予算を申請した。そして首尾よく承認され、以前よりしっかりした構造物を建て、計測装置も買い込んで、雪を待った。

ところが、である。その年は暖冬、次いで翌年も降らない。屋根雪は30cm くらい。構造物の変形は微々たるものである。

その報告書の作成には非常に困った。新しいデータがほとんどないのであるから、今風に言えば「シミュレーション」とやらで誤魔化したような記憶がある。

その後、自然相手の研究には手を出さなくなった。建てた構造物は試験場の物置に転用された。

ちなみに建築学会でのタイトルは「木質構造体の耐雪設計に関する実験的研究:第一報・積雪荷重下の小規模木質構造体の変形」。ただし「第二報」は、どこを探しても出てこない。

(徒然亭)

  < 猫も博士も
コラムトップ
縦書き・横書き >

ページトップ