木材保存誌コラム

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最近、気になっている言葉

みちくさ vol.47 No.3 (2021)

現在でも「木材利用と環境負荷」といったタイトルでお話することがある。

このときのキーワードの一つが「カーボンニュートラル」。すなわち環境科学上の定義では「植物由来物質の燃焼・分解に伴って排出される二酸化炭素量は、その植物が成長過程で吸収した二酸化炭素量と等しい」ことを示した概念であることは本誌読者には自明のことであろう。

そしてこの「植物由来の物質」の代表格として木材が取り上げられ、例えばこれを燃料として用いたとき発生する二酸化炭素は、樹木の成長過程で取り込まれたものであるため、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えない。そのように考えると、木材を燃料として用いても、石炭や石油のような化石燃料を使用した場合のような二酸化炭素は排出していない、ともいえるわけだ。

この言葉、地球温暖化の主な原因の一つと考えられている大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑えようとする動きの中で頻繁に登場するようになった。

そのきっかけの一つは昨年十月の臨時国会で、菅総理が行った「我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」といった発言であろう。

経産省のホームページでは「カーボンニュートラル」の「ニュートラル(中立)」が意味するところを、環境省のカーボン・オフセット制度の定義を引用し、次のように説明している。

『温室効果ガスについて「排出を全体としてゼロにする」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことを意味します。つまり、排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、排出せざるを得なかったぶんについては同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロ、正味ゼロ(ネットゼロ)を目指しましょう、ということです。』

この説明は一応理解できるものの、環境科学としての純学問的定義とは異なった政治経済的方向を意識しているような印象を受けるのは筆者だけなのだろうか、と思ってしまう。それに「脱炭素社会」っていったい何のこと?

(徒然亭)

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