木材保存誌コラム

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木材保存誌コラム

既往の文献を眺めると

みちくさ vol.44 No.1 (2018)

現在、もう一誌、連載記事を受け持っており、原稿締め切りが本誌とほとんど同時、という巡り会わせが年に数回ある。実は今回がまさにその状態になり、しかも先ほどまで書いていた他誌の内容が「高温乾燥材」に関連することで、そこでは木材の耐朽性、耐蟻性についても触れてしまった。

これは要するに、本誌読者層の専門領域、そのものに関する内容である。そこで今回はそのような記事を書くに至った経緯を少し披歴しておこうと思う。無論、あまり学術的なところまで踏み込むつもりはないが、...。

まず、直接的な発端は昨年5月に行われた、木の建築フォーラム主催の「今、求められる木材乾燥とは」というシンポジウムに参加したことである。ここでは建築側からの「高温乾燥処理材」に対する違和感、不安感が示され、その点について供給側と利用側を交えた議論が行われている。

この件、筆者もかねがね気になっていた課題であったため、昔々、自分の書いたものを含め、いろいろな文献を探し始めた。そこで出てきたのが、二〇〇二年の木材学会大会時に行われたシンポジウム「乾燥材問題を考える」の資料(木材学会木材強度・木質構造研究会のウェブサイトからダウンロードできる)であった。

そこには奥山剛氏(故人、当時名大教授)の「ヘミセルロース成分が熱による材質変化のほとんどを支配している」との記述や、富山県の栗崎氏による「化学的変化・耐久性と乾燥の関係」と題された化学成分の分解・揮発に関する報告をまとめたものが掲載されている。

二〇一一年には林野庁補助「データ収集・整備事業」の成果物として「最新データによる木材・木造住宅のQ&A」という冊子が作成され「人工乾燥によって耐朽性はどのように変わるのですか?」というQが設定されている。

ただし、ここでのAは「乾燥方法の違いにより耐朽性の違いはあるのですが、人工乾燥材は耐朽性が向上するあるいは低下するとは一概には断言できません。」とある。しかしこれだけでは建築側の納得は得にくいだろう。

いずれにしろ、高温乾燥材に関しては、各種強度性能のみならず、耐朽性・耐蟻性に対する化学的成分の変化に伴う影響や樹種差に関する情報も含めた「続編」がほしい、と思った次第。

(徒然亭)

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いじわる爺さん

みちくさ vol.43 No.6 (2017)

先日、木材学会「木材強度・木質構造研究会」が静岡で開催され、それを覗いてきた。プログラムは安村基先生の「CLT」を話題にした講演を中心に組まれていた。これは実に濃い、示唆に富んだ内容を含んでいたのであるが、この件、後日、木材工業誌で紹介予定とのこと、ここで触れるのはよそう。乞うご期待、といったところである。

さて、某日、某所で、某先生、小生に「我々、年寄はいじわる爺さんになるべきである」と、話かけて来られた。いささか唐突でもあったので、そのときは曖昧な返事をしたと思う。

そのことが直接の引き金になったわけではないが、先日の建築学会で、まだ比較的若い研究者や学生諸君の講演内容に対して、若干アカハラに近い質問をしてしまった。それも複数の人に対してである。おそらく「誰?あのうるさい爺さん」と思われているに違いない。

筆者が建築学会で初めて発表したのは三十年以上も前のことである。当時の発表件数は少なく、会場には三十人程度だったと思うが、その最前列に、今では「伝説の木質構造学の権威」とでもいうべき、G先生が必ず座っておられた。そして、構造系の講演が始まると、決まって「この内容については、私がかつて報告したことがあります。その論文を読みましたか」といった内容で質問されたものである。

この話を聞いたのだろう、翌年、それと同様のテーマで発表した後輩たちは、開口一番、「Gの論文によれば、云々」と始めた。おかげでG先生の質問がずっと減ってしまった。

そういえば木材学会などでも、かつては(今も?)各セッションにはそれぞれ「主」みたいな大先生が鎮座されていた。そして発表が終わるや否や、的を射た、あるいは、ときには本題とはあまり関係なさそうな、想定外の質問をされるのである。したがって若い人はもちろん、中堅どころの登壇者でも、相当緊張しているようであった。場外では、

「○○先生、いた?」

「今日はいないみたいよ」

「よかった!」

という会話もよくあった。

聞くところによれば安村先生も退官間近とのことである。いい「いじわる爺さん」になってほしいな、と思う。

(徒然亭)

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広島で

みちくさ vol.43 No.5 (2017)

数日前まで建築学会の大会があり、これに参加していた。会場は五日市にある広島工大。

一万人近くも参加する学会大会である。僕は広島市内、それも駅前のホテルを予約することができたが、それが不可能で、やむなく連日、岩国(山口県)から通った人もかなりいたとの由。もっとも、JRでは広島から岩国まで各駅停車でほぼ一時間、広島・五日市間は二十数分だから、会場と宿泊地の往復だけを考えるなら、どちらに泊まろうと時間的なロスに大きな差はない。ただし懇親会の大半は広島市内で行われており、これに出席するのも重要な仕事である。そう考えると......。

さて、広島から岩国までは、錦帯橋を見に行くために、以前乗ったことがある。この宮島以西、岩国までがほぼ海沿いを走る。とくにカキ養殖用の筏とその向こうに厳島が見える大野瀬戸あたりはなかなかよろしい。

広島・宮島間にはJRと並行して広島電鉄が走っている。これは広島から繁華街を経由して西広島までが併用軌道、そこから宮島(広電は「宮島口」)まで専用軌道。この間にも何回か乗ったことがあり、錦帯橋に行った時の帰りも宮島で下車、厳島神社に「JR連絡船」で渡っている。全区間乗れば一時間と少し。廿日市と宮島の間は、ほぼ海が見え、結構、頑張って走る。ただかなり揺れる。 ところで、山陽路の在来線鉄道の、このような走行区間は意外に少ないらしい。広島県内でも広島以東はまさに山の中で、東に向かっていくと通称「瀬野八(せのはち)」と呼ばれる急勾配の坂がある。

以前、広島大学で行われた建築学会のときはJR西条が最寄り駅であったため、この路線電車の運転席の後ろ、あるいは再後部に陣取ったものだった。この連続勾配、長さは十キロを超えており、行けども行けども、上りあるいは下り。上りでは電車が旧型であったせいもあろうが、まさに息切れしそうな、下りは奈落の底に落ちそうな感じがした。

最近でもこの区間の電機牽引の貨物は後補機(要するに後ろから押す機関車)を付けているそうで、にも拘らず、雨の日などスリップするなどのトラブルが発生するのだそうである。

電車も新型になったようだし、もう一度乗ってみたいと思う。

(徒然亭)

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超豪華寝台列車・故障/立ち往生

みちくさ vol.43 No.4 (2017)

そろそろ原稿催促の時期となり、これに手を付けようとしていた矢先、前回書いたJR東日本「トランスイート四季島」が早速「故障、立ち往生した」というニュースが飛び込んできた。

5月1日の運行開始から丁度2か月目である。場所は福島県内、現場に8時間半、停電で停車したとの由。ネット上ではインスタグラムなどでの現場中継が残されていた。

四季島の電気モーターを動かしているエネルギー供給方法の件は前に書いたように複雑である。簡単に言うと非電化区間ではディーゼル発電機で発電してこれを用い、電化区間は普通の電車として走行しているわけであるが、今回の運行経路は信越線を経由して新潟県内から磐越西線に入り、会津若松に抜けるというものだった。つまり新潟側の新津までが直流、そこから喜多方までが非電化、次いで会津若松方面に向かって交流に変わる、という経路になっていたわけである。

JRでは故障の原因を「非電化区間から電化区間に変わる喜多方駅での停車中にパンタグラフを上げたところ、9号車の屋根の上に折れた木の枝があったためショートし、パンタグラフを昇降させる空気配管に穴があいた。」と発表している。

最終的な報告はまだ出ていないのではあるが、どうも「そうではないのではないか」という意見も多い。例えば、新潟側の「直流電車モード」のままで走行し、喜多方以東で「交流電源モード」に変換せずに繋いでしまったのではないか、という見方である。

電源切替の技術的な仕組みはよく判らないが、これは機械的な誤作動によるものなのか、あるいは運転士の人為的な操作ミスなのか、どちらなのだろうか?

四季島は来年3月分までのチケットが完売しているのだそうだが、試運転のときにはエンジンの不具合によって、緊急停止する事故が2度も発生したらしく、安全面・技術面、たとえば車両の整備、運転士の教育・訓練に関する課題も多いとの記事もあった。

人命にかかわる事故に至らなかったのは幸いであるが、原因究明と対策についての情報開示はしっかりしてほしいものである。

「瑞風」も走り出し、テレビでもずいぶん報道されていた。こちらの方は大丈夫かしら。

(徒然亭)

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超豪華寝台列車

みちくさ vol.43 No.3 (2017)

JR東日本が凄い寝台列車を走らせはじめた。「トランスイート四季島」という。クラスや旅程にもよるが、最低の一泊二日でも一人三二万、三泊四日になると九五万円。車内での食事以外の、いろいろなイベントや外泊なども含めて、とはいえ、結構な値段である。

それを追いかけるように、JR西日本はこの六月から「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」という、やはり豪華な寝台列車を走らせるのだそうだ。こちらの方は「四季島」よりもさらに高額になる価格帯もあるらしい。

こんな列車に誰が乗るのかねぇ、と思っていたら、JR九州の「ななつ星」同様、もうかなり先まで予約でいっぱいだそうである。瑞風の平均競争率は5・5倍。どうも定年後シニア世代親爺の、奥さんに対する「日頃の罪滅ぼし」か「新婚旅行」を狙っているようにしか見えない。

その「四季島」が北海道にやってくる、というニュースがあった。しかも目的地には「登別」が含まれているという。

「あれっ?」と思った。

写真ではパンタグラフが確認できるから、「ななつ星」のような客車を機関車で牽引するタイプではなく、これは「電車」に違いない。しかし道内走行予定の区間のうち、新函館北斗から東室蘭までは非電化であるので、「この間はどうするのかなぁ、昔のようにディーゼル機関車ででも引っ張るのかしら、それも面白そう」とも思った。 

調べてみると、要は「ハイブリッド型」。ただ、ディーゼル発電機で発電してモーターを回す、という方式の車両は、これまでも「五能線」の「リゾートしらかみ」用などに使われていたのだが、「四季島」の場合、非電化区間ではこれを用い、電化区間は普通の電車として走行するのだそうだ。これで電化・非電化の両方の区間で走行可能となるのである。「瑞風」も同様の方式らしい。

ただし国内狭軌JR線内の電化区間では、電気の「質」が四種類に分類される―これ、鉄道検定問題になりそうですな―ので、そのすべての条件への対応のための技術にもずいぶん工夫が施されているとのことである。

JR西日本では「気軽に楽しめる長距離列車を検討したい」との発言もあるようだ。こちらの方なら検討に値するが。

(徒然亭)

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