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虫を歌う

虫めがね vol.37 No.3 (2011)

万葉集にも蚊やりについて歌った和歌があり、ハエ・蚊・ノミなどの害虫は昔から私たちの生活の身近に居たことが判る。ゴキブリは江戸時代の南蛮貿易により南の国から堺の港にやって来たと考えられている。今では私たちは、蚊取線香、殺虫エアゾール、ノミ取粉など、これらの害虫と戦う手段はいろいろ持っているが、江戸時代の庶民はどのようにこれらの害虫をふせいだのだろうか。

蚊帳[かや]、蝿帳[はいちょう](ハエが入らないように網で囲った箱)、蚊やり・蚊燻しなどが江戸時代に使われていたことは記録にも見られる。蚊やりや蚊燻しには今の蚊取線香のような殺虫力は無かった。乾燥したカヤ、杉、松、ヨモギなどの葉や、ミカンの乾皮などを燻して蚊を追い払った。これらは煙が多く、眼や鼻の粘膜を刺激する割には蚊に対する効果は余りなかったと考えられる。
庶民を悩ましたこれらの害虫を敵として憎んでいたかというと、そうでもない姿が見えてくる。かれらは害虫であるが、人間生活の共存者として受け入れていた様子が浮かびあがってくる。

江戸時代後期の俳人・小林一茶に、「やれ打つな ハエが手をする足をする」
という有名な句がある。ハエを叩いて殺そうなんて可愛そうではないか。ハエをよく見ると、足を擦り合わせて命乞いをしているようではないかと歌ったものだ。

イエバエはよく見ると前脚、後脚を擦り合わせたり、後脚で翅をこすったりしている。これは自分の身体についているゴミやダニなどを払い落として身体を清潔にしている身繕いの仕草である。

また同じ一茶の句に、「ノミどもに 松島見せて放ちけり」
という句がある。一茶が宮城県を旅していたときに尿意をもよおしたので、路傍でフンドシをほどいて立ち小便を始めたら、フンドシに潜んでいたノミが日本三景の一つ・松島を眺めているという何とも一茶らしい句である。他にも、「ノミ焼いて 日和占う山野かな」「蚊やりから 出現したりでかい月」
などがあり、庶民派の一茶らしい句である。

また、江戸時代前期の俳聖と言われている松尾芭蕉にも、「ノミ・シラミ 馬の尿ばりする枕もと」という当時の庶民の生活を描いた句がある。
外国にもメキシコには、La cucaracha(The cockroach)というゴキブリを歌ったラテン調の愉快な民謡がある。
人々にとって悩ましいハエ・蚊・ゴキブリ・ノミ・シラミなども、歌にうたって、笑い飛ばす庶民のしたたかな生活の力がうかがい知れる。

(赤タイ)

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