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診断技術の研修会の見聞録

第2回木材劣化診断士研修会に参加して

1.はじめに

(社)日本木材保存協会(以下JWPA)は平成18年度に木材劣化診断士制度を発足させ,現在までに約70名の木材劣化診断士を世に送り出している。木材劣化診断士にとっては,知識だけでなく実践的な技能の習得が非常に重要になるため,JWPA では3年に一度の資格更新時講習だけでなく,実地訓練を兼ねた診断士の研修プログラムを実施している。

今回,木材劣化診断士の診断技術のレベルアップを目的として,第2回木材劣化診断士研修会が平成21年6月19~20日に兵庫県立丹波年輪の里において開催された。筆者はこの研修会に参加する機会を得たので,その概要について報告する。

2.兵庫県立丹波年輪の里

2-01.JPG写真1 丹波年輪の里(木の館)兵庫県の中東部,山々に囲まれた丹波市。黒豆,松茸,山の芋など山の幸に豊富なこの丹波市は,何よりも筆者の愛すべき故郷である。今回の研修会場になった兵庫県立丹波年輪の里(兵庫県丹波市柏原町)は,木とのふれあいの中で県民に憩いの場を提供するとともに林産業界の振興に寄与することを目的にして昭和63年4月に開園した施設である(写真1)。同施設の林産指導課は,「暮らしの中に木を取り入れる」ことをねらいとして,木材・木製品に関する情報の収集・提供,木材業者への指導・助言,木材利用を促進するための展示,イベントや研修会の開催などの業務を行っている。中でも今年で22回目を数える丹波の森ウッドクラフト展(木のおもちゃ大賞展;グランプリ副賞50万円)は,多くの参加者で賑わっているとのことであった。

この年輪の里を会場にして,京都大学の藤井先生,横浜国立大学名誉教授の矢田先生,森林総合研究所の原田先生のご指導のもと,研修生15名が参加し,今回は初めての試みの一泊二日の研修会がスタートした。

3.研修のアウトライン

2-02.JPG写真2 研修室での藤井先生の講義藤井先生から,今回の第2回木材劣化診断士研修会は木材劣化診断士の診断技術レベルアップが目的であるとの説明を受けた。資格取得してから実際に診断をする機会が少ない人も実際の建物を診断し,さらに企業単位では必ずしも備えていない診断機器類の使用,記録・判定・報告の方法を身につけて欲しいとのことであった(写真2)。

プログラムの概要は以下の通りである。

6月19日午後

  • 開会とオリエンテーション
  • 3グループに分かれて一次診断および二次診断(レジストグラフ,ピロディン)

6月20日午前

  • 二次診断(超音波診断,腐朽菌の検出)
  • グループごとに診断結果講評,報告書の書き方
  • とりまとめと閉会
4.実習

年輪の里の広大な敷地内には事務棟,木の館,アトリエ棟および空中回廊等の建物が点在している。今回の研修では,この内,アトリエ4棟と木の館の一部が調査対象物件となった。物件の特徴としては,洋風の瀟洒なデザインであるが,柱の外面は屋外に暴露され建物の高さがある割に軒の出が少ないため,多くの部分が雨の影響を受けている点が挙げられる。このような点から,住宅部材というよりは外構部材に近く,開園後20年以上を経過していることから,劣化診断研修としては診断しがいのある物件であった。

4.1 一次診断

一次診断の目的は,劣化のある場所,種類(腐朽・シロアリ)及びおおよその程度の特定にあり,そのためには,定めた範囲(今回の場合,外周壁1階部分の構造部材を中心に外部から診断)を一定の基準で見渡して劣化を抽出(スクリーニング)すること,との指導があった。

2-03.JPG写真3 一次診断実際に3班に分かれてドライバー及び含水率計を用いてアトリエ棟を診断した(写真3)。チョークでマーキングし,疑わしい箇所を全て抽出したが,特に雨水の溜まりやすい構造部分に劣化が認められる傾向にあった。筆者は,言葉では理解していても実地の経験に乏しく,同時に参加された経験豊富な方の手法・段取りを見るだけでも非常に良い経験になった。一次診断とは,視診・触診・打診等という古典的な手法が用いられ,一見,軽視しがちであるが,実はここでの診断者の感度・経験・能力が全体を通した診断の成否に大きな影響を与えることを強く感じた。

4.2 二次診断

さらに一次診断において強度低下が疑われる部位について,ピロディン,レジストグラフ,超音波測定器,腐朽診断キット(ウッドチェッカー)を用いて二次診断を実施した。レジストグラフは,錐で穴を開けながら木材内部を進行させ発生する穿孔抵抗をモニターするもので,超音波測定器は木材中の超音波の伝達速度をモニターするものである。それぞれ劣化による強度低下の位置・レベル・範囲を知ることができる。腐朽診断キット(ウッドチェッカー)は,木材腐朽菌の存在を高感度に検出できる判定キットである。

木の館の大断面集成材からなる柱を各班で診断したところ,我が班の診断では,一見,健全に見える柱でも,超音波測定器で異常が推定された部位をレジストグラフで診断すると明らかな内部劣化が認められた(写真5,6)。また最後に,腐朽と推定された部位をいくつか少量サンプリングし,腐朽診断キットで判定したところ,多くのサンプルに腐朽菌の存在が示唆された。

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写真5 レジストグラフによる診断
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写真6 超音波測定器による診断

普段はなじみの無い機器を用いて実際に診断することにより,それぞれ長所と短所があるものの,総合的に使いこなすことにより非常に有用な診断ツールとなることが理解できた。

各班の代表者が,それぞれの診断結果を発表し,情報を共有した後,研修室に場所を移し,データの分析と報告書の書き方の指導を受け,実習を終了した。

5.最後に

国内に優良な住宅のストックを形成し,その流通を促進するため,住宅品確法を始めとして法律の整備が矢継ぎ早に進められており,今後,住宅の診断・点検に基づく維持管理,リフォームや住宅売買における劣化診断の重要性が益々認識されることになると思われる。このような中で,確かで実効性のある劣化診断技術の開発,劣化診断のための受け皿作り,劣化診断士の養成は,今後,より重要な位置づけになると考えられる。

木材劣化診断士研修会に初めて参加したが,全ての研修生が非常に熱心に取り組み,それぞれの経験を踏まえた情報交換も随所に見られたことが印象的であった。今回は1泊2日の研修であったため,夜には喉を潤しながら,劣化診断に関する話題等について活発な議論が繰り広げられた。今回の研修の内容は,貴重な経験であり,今後,日々の業務に活かせるようにしていきたい。

最後になりましたが,このようなすばらしい研修を準備,お世話いただき,また,筆者に貴重な帰省の機会を与えていただいた藤井先生,矢田先生,原田先生,兵庫県立丹波年輪の里の喜多林産指導課長,JWPA の竹内さんに心よりお礼申し上げるとともに,一緒に参加された研修生の皆様のご協力に感謝いたします。まことに有難うございました。

株式会社エス・ディー・エスバイオテック
田中 計実

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