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診断技術の研修会の見聞録

第5回木材劣化診断士研修会に参加して

1.はじめに

写真1 野外活動センター管理棟平成24年7月6日,第5回木材劣化診断研修会が横浜市こども自然公園青少年野外活動センターで開催された。本研修会は,木材劣化診断士の資格更新時(3年毎)講習とレベルアップのための実施訓練を兼ねて開催されてきたものであるが,資格所有者以外の受講希望も多く,今回から有資格者以外にも門戸を開いての開催となった。筆者も有資格者ではないが,県の試験研究機関という立場上,公共土木・建築構造物の維持管理に携わる部署から部材の劣化に関する相談を受けることもあり,今回の研修を受講させていただいた。

受講者数は18名で,うち,筆者を含む6名が木材劣化診断士の資格を有しない参加者であった。
また,オブザーバーとして参加された3名の環境省の方及び講師の方々と事務局の竹内氏を含め,参加者の総数は28名であった。以下に研修の概要を報告する。

2.研修会場(横浜市こども自然公園青少年野外活動センター)

rekka_5-02.jpg写真2 野外活動センター宿泊棟横浜市こども自然公園は,48.1ha と横浜市内で最大級の面積を持つ。公園の中心となっている「大池」は江戸時代中期に灌漑用に造られ,天明の大飢饉の際にはこの池の水と魚により多くの人が救われた歴史を持つという。その後,昭和30年代に進められた相模鉄道沿線一帯の開発の際に,緑地保全を目指して都市計画が作成され,相模鉄道から寄付された23.6ha の土地を基に隣接地を買収し,昭和43年から整備され,47年に開園したそうである。

研修会場の野外活動センターは,公園内の恵まれた自然環境の中で,集団生活と野外活動を通じ,心身ともに健全な青少年の育成を図るとともに,市民の野外・レクリエーション活動の普及・振興を図ることを目的として設置されたそうで,平日は学童,土曜・休日は青少年の利用が多い,とのことであった。余談であるが,筆者は少年時代横浜に住み,「大池」に釣り竿を担いで通ったこともあるが,上記のような歴史が「大池」にあったことを知らず,また,当時はまだ無かった野外活動センター等の施設が,築後20年以上経過し,劣化診断が必要な時期を迎えていることに,少々複雑な感慨を覚えた。

劣化診断の実習を行った野外活動センターの管理棟及び宿泊棟は,いずれも築後23年経過し,管理棟は木造軸組2階建てで1階に事務室,食堂など,2階に宿泊室・浴室などがあり,宿泊棟は木造軸組平屋建てで左右3室ずつの部屋を中央部のデッキで繋いだ構造のものが3棟あった(うち2
棟で調査を実施)。軸組はベイツガ,小屋組はベイマツを主体とし,土台等はCCA 注入材を使用,外部は含浸型の保護塗装で随時塗り替えられ,宿泊棟のデッキは4年前(築後19年時)に部材交換が行われたとのことであった。公共建築物としては比較的小規模で,調査物件としてはペンションや別荘などの民間施設とも共通する特徴が多いように感じられた。

3.概要説明(ガイダンス)

集合時間は午前11時。今回の研修は1日のみなので,午前中の1時間で,診断の基礎についての説明,上記施設の概要やメンテナンスの履歴,さらには,調査物件である管理棟と宿泊棟の両方を,全員で見て回りながら午後の診断実習の概要についての説明を,講師の矢田茂樹先生(横浜国大)・藤井義久先生(京都大)から受けた。

生物劣化は虫害と腐朽に大別され,虫害ではシロアリが害虫としてのイメージが強いが,国内に生息する16種のシロアリのうち被害が現実的に問題となるのは4種,うち分布の広さなどから,ほとんどの被害はイエシロアリかヤマトシロアリのどちらかであること。上記2種は風・光を嫌い,土中に巣(コロニー)をつくり,主な侵入経路は床下からであるが,必ずしも材そのものが湿潤である必要はなく,侵入経路のどこかで水分が補給できれば,乾材であっても被害を受ける可能性があること。大壁の場合,壁の内部で被害が進むため,早期発見が困難である,とのこと。

一方,腐朽の原因となる木材腐朽菌は,真菌類のうち,担子菌類(キノコ)に属するものが多く,胞子の状態で空気中を漂う。空気があればどこにでも居て,水さえあれば菌糸を伸ばし木材を腐朽する。腐朽を防ぐためには,木材の含水率を30%
未満に保つ必要があること,などなど。これらの説明を受けた上で,昼食後は3班に分かれ,管理棟,宿泊棟(A・B 棟)の3施設を調査することになった。

4.実習
4.1 一次診断

班編制は,当初申込み順であったようだが,今回は筆者を含め劣化診断士ではない者が6名居るということで,有資格者の班(1・2班)と,それ以外の者(3班)を別編成にするというご配慮をいただいた。筆者を含む3班は,藤井先生と藤原裕子氏(京都大)の指導のもと,宿泊棟(B棟)
の診断を行うことになった。

藤井先生から,一次診断は,対象物件の劣化が既に明らかな場所及び劣化が疑われる箇所を抽出するために行うが,特に構造上重要な部位,床下や風呂などの水周り,閉鎖基礎など腐朽や蟻害の入りやすい場所は全てチェックするように,との注意を受けてから,宿泊棟の診断に入った。

宿泊棟は雨樋が無く,軒先に集まった水がそのままデッキに落ち,跳ね返った水で外壁やドアなどの下部が濡れるためか,目視ではそうした場所の劣化が目立った。構造上重要と思われる部位(柱などがあると思われる場所)では,目視だけでなくドライバー突刺により,劣化部の深さを推定し,劣化の原因ごと(D:腐朽,T:蟻害,B:甲虫害)
及び被害度(1~3)をマスキングテープに明記して二次診断に備えることとした。デッキ下にはシロアリの蟻道の痕跡等もあったが,とりあえず,一次診断を終えた時点では,被害度が2を超えるような,構造上深刻なダメージは確認できなかった。

4.2 診断機器の解説

rekka_5-03.jpg写真3 宿泊棟外壁・ドア下部の劣化二次診断に入る前に,森林総研の原田真樹氏,エフティーエスの藤原貴央氏,東邦レオの永石憲道氏から二次診断に使用する機器(ピロディン,レジストグラフ,パンジット)の使用法やおおよその価格などについての解説があった。また,機器の説明後,建物の二次診断に入る前に,我々3班は劣化が進んだ木製看板等でレジストグラフ等の二次診断機器の練習を行なった。

インターネット等により,こうした機器についての情報も得やすくはなったが,手にとって触れる機会はめったに無く,価格も比較的高額で,そうそう気軽に購入もできないので,今回の研修会のように,これらの機器を日常的に使用されている方々の話を伺いながら,実際に機器に触れ,使用感を確認できたのはたいへんありがたかった。
筆者も,ピロディン以外の機器は使用したことが無かったので,たいへん興味深く話を伺った。それぞれの機器に特徴,得手・不得手があり,対象物・状況によって機器を使い分ける必要性があることなどもよくわかり,貴重な体験をさせていただいた。

4.3 二次診断

rekka_5-04.jpg写真4 ドライバー突刺による一次診断二次診断では,一次診断でマーキングした箇所を中心に,主としてレジストグラフによる劣化診断を行った。レジストグラフを使用したのは,一次診断で構造材の劣化が疑われたドア脇の柱(写真3,4)が,現しでなく,下地材や断熱材の有無・その厚さ等も不明であった為,ピンの穿孔長さが4cm しかないピロディンや,超音波の伝播速度で部材が劣化しているか否かを判断するパンジットでは診断が困難と思われたからである。レジストグラフは,30~50cm の深さまで穿孔が可能だが,一箇所・一方向からの穿孔だけでは腐朽等の部材劣化と,断熱材や化粧材と構造材の隙間等の判別は難しい。しかし,複数の方向や高さから穿孔することである程度内部構造を推定することができる。診断の結果,該当部分の劣化は,大きな断面欠損に相当するようなものではないだろう,という結論となった。

また,以上の箇所以外にも,結露や雨漏り等で内装の合板が波打っていた箇所等はあったが,柱や梁等の構造材では顕著な劣化は確認できなかった。

5.まとめ・反省点

二次診断後,各班毎に診断結果の報告を行った。
限られた時間の中,有資格者の1班・2班は要所を押さえた診断を行っており,さすが,といったところであった。一方,我々3班が診断を行った宿泊棟B 棟には,幸い顕著な部材の劣化は認められなかったが,デッキ下にあったシロアリの蟻道の痕跡が構造上重要な部位に繋がっていないかを確かめておらず,反省点となった。また,私個人で言えば,全体での説明の後,各班ごとに診断する施設に向かう際に,渡された含水率計がたまたま使い慣れた機種であった為,動作確認を怠り,電池切れに気づかぬまま出発してしまった。このような基本的なミスを犯さぬよう,今後は注意したい。

17時前に全日程が終了・解散となったが,最後に藤井先生の仰った,今後,バブル期に建造した公共建築物がメンテナンス期を迎え,劣化診断の重要性が非常に高くなってくるであろう,という言葉が,印象深く記憶に残った研修会であった。講師の皆様・及び本研修への参加に当たり,多々ご配意いただいた事務局の竹内氏に深謝し,本報告の結びとさせていただく。

長野県林業総合センター
山内仁人

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写真5 レジストグラフによる劣化診断実演
   (東邦レオ 永石氏)
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写真6 穿孔抵抗による劣化診断機器
   (レジストグラフ)
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写真7 貫入抵抗による劣化診断機器
   (ピロディン)
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写真8 超音波伝播速度による劣化診断機器
   (パンジット)

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