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診断技術の研修会の見聞録

第10回木材劣化診断研修会に参加して

1.はじめに

2014年(平成26年)7月3日㈭に,第10回木材劣化診断実地研修会・兼更新講習会が茨城県つくば市の独立行政法人森林総合研究所(以下,森林総研)で開催された。本研修会・講習会は,生物劣化(腐朽・虫害等)を受けた木材を実習材料として使用し,各種診断機器による劣化診断の他,測定データのまとめ方や報告書の書き方について実習するというもので,さまざまな診断機器を使用して劣化木材を診断することができる貴重な機会である。また本研修会・講習会は,3年ごとに更新が必要な木材劣化診断士資格の更新講習会も兼ねている。筆者は平成23年に木材劣化診断士資格を取得しており,今回は更新の時期のため,本研修会・講習会に参加した。筆者は業務上,劣化診断を行う機会がほとんどなく,今回の研修は木材の劣化診断を再度基本から学び直す良い機会となった。

以下に本研修会・講習会の概要を報告する。

2.研修会概要

本研修会・講習会の受講者は24名で,建築・設計や住宅メーカーに所属する者が多く,木材加工・販売,木材保存剤の製造販売など,木材関連の業種も多くみられた。今回の受講者の過半数は業務として劣化診断を行ったことがないとのことであり,実際に劣化診断をするのは木材劣化診断士資格検定講習・試験での実習以来であるという者も多かった。

講師は,京都大学の藤井義久先生と藤原裕子氏,横浜国立大学名誉教授の矢田茂樹先生,関東学院大学の中島正夫先生,森林総研の原田真樹氏の5名であった。

木材劣化診断には,目視や打診,触診といった簡単な方法で劣化箇所と症状を検出する一次診断と,一次診断で検出した劣化箇所について診断機器を使用してより詳しく診断し,定量的なデータを得ることを目的とする二次診断がある。今回の研修では,二次診断の実習を通して診断方法や測定機器の取り扱い方法を学ぶことが主な目的となっている。

3.研修内容

研修プログラムは以下の通りである。

10:45 講義1 木質構造物の耐久設計(講師:中島先生)
11:40 実習1 二次診断機器の操作(講師:矢田先生)
・レジストグラフの操作(刃具交換含む)を中心とした,機器操作における注意点等の説明
13:15 実習2 一次診断(講師:原田氏,他)
・サンプルの腐朽材を用いた視診,触診,打診,刺診,含水率測定
実習3 二次診断(原田氏,他)
・実習機器(ピロディン,超音波,レジストグラフ)を使用した測定
15:30 講義2 ビデオ学習による一次診断の注意点(講師:藤井先生)
講義3 診断報告書の書き方と注意点(講師:藤井先生)
・Web対応型の報告書作成支援ソフトウェアの解説
16:15 全体質疑
3.1 木質構造物の耐久設計

写真1 講義風景

木質構造物の劣化の事例と原因,生物劣化に対する対策について説明を受けた。劣化の原因としては,雨水の浸入や跳ね返りによる事例が多く紹介され,設計や構法により水分の浸入を防ぐことが重要であるとのことであった。また,金属の腐食による接合具の耐久性についても事例が示され,薬剤処理した木材に金物を使用する場合は材質を選ぶ必要があるということであった。

3.2 レジストグラフの操作説明

写真2 レジストグラフの操作説明

二次診断で使用する測定機器のうち,レジストグラフを対象として説明があった。レジストグラフは細い錘で木材に穴を開け,その時の穿孔抵抗と深さを機器に設置された用紙に記録し,内部の劣化を診断する機器である。(公社)日本木材保存協会(以下,保存協会)では,平成26年1月から木材劣化診断士を対象としてレジストグラフの貸出を行っている。貸出対象者は正しい操作方法を理解していること,刃が磨耗したり折れたりした場合に刃具の交換ができることが必須となっている。そのため実習では,貸出に対応できるように実際に貸出されるレジストグラフを使用して刃具交換を中心とした取り扱い方法について説明を受け,受講者全員が刃具の交換を行うといった内容になっている。筆者も実際に刃具交換を行ったが,刃を固定するネジの位置合わせや刃を差し込む深さを決めるのにコツが必要であり,使用前に練習する必要があると感じた。

3.3 劣化診断実習

24名の受講者が6名ずつ4班に分かれ,森林総研内の実験棟に用意された劣化木材サンプルを用いて劣化診断の実習を行った。

今回用意された劣化木材サンプルは2種類あり,ひとつは中央部に鋼板挿入ドリフトピン接合の継ぎ手を有したスギ集成材で,森林総研にて屋外暴露されていたものである。もうひとつは丸太材で,こちらは遊具として実際に使用されていたものである。

筆者の班はスギ集成材を対象として劣化診断を行った。まず始めに,視診,触診,打診,刺診,含水率計による一次診断を行い,サンプルに診断結果をマーキングした。マーキングの際は養生テープを使用すると便利とのことであった。含水率計は高周波式と電気抵抗式があるが,今回は両方を使用した。今回のサンプルでは主に鋼板挿入部付近で劣化が激しかったため,この部分を中心に測定機器を用いて二次診断を行った。二次診断ではレジストグラフの他,ピロディン,超音波測定器を使用した。ピロディンによる測定については難しいところはなかったが,空打ちすると故障の原因となるため注意が必要とのことであった。超音波測定器による測定は,超音波を送受信する接触子の間に接合金具などの木材以外のものが存在すると正しい結果が得られないため,今回のサンプルのように鋼板挿入部付近を測定する際は,鋼板やボルトを避けて接触子を当てるように指導があった。また,ピロディンやレジストグラフなど,材に穴をあけて測定するものについては,その穴から劣化が進行しないように,測定終了後に表面処理薬剤で処理をするのを忘れないようにとの注意があった。

診断結果については,劣化が激しかった箇所は含水率が高めであり,ピロディンでは打ち込み深さが上限となった。超音波では測定上限値をオーバーする異常値が認められた。測定機器を用いた測定結果は健全部と比較することでより異常がはっきりするが,今回のサンプルは全体的に劣化が進んでおり,健全部といえる箇所はほとんどみられなかった。異常と判断された部分を数ヶ所選定し,レジストグラフで測定したところ,いずれも内部の劣化が確認された。またレジストグラフで積層方向に穴をあけて測定すると,一部分で大きく異常が検出された。サンプルが集成材であったため,積層されているひき板ごとで劣化の進行度合が異なっていたと考えられる。レジストグラフは穴をあけ始めてからの距離と抵抗がグラフ化されるため,集成材の場合はどの層のラミナが劣化しているかはっきりさせることができる。今回のサンプルは,もし実際に使用されていれば交換が必要なほど劣化が進行していた。


写真3 劣化診断実習風景

写真4 含水率計(左:高周波式,右:電気抵抗式)

写真5 レジストグラフ

写真6 ピロディン

写真7 超音波測定器

写真8 ピロディンでの測定

写真9 超音波測定器での測定

写真10 レジストグラフでの測定

写真11 レジストグラフでの測定結果
 
3.4 一次診断及び診断報告書の書き方

劣化診断実習後,会議室へ移動し,一次診断及び診断報告書の書き方について説明を受けた。

一次診断のポイントは,「劣化の有無」・「劣化の種類(腐朽または虫害(シロアリ・非シロアリ))とおおよその程度」・「進行性かどうか」について明確にし,二次診断が必要であればその部位を抽出することである。劣化診断実習でもまず一次診断を行ったが,前述のポイントを迅速かつ的確に判断するには経験が必要であると感じた。

診断報告書の注意点としては,劣化の進行具合や原因,その補修方法についての助言にとどめておき,安全性や寿命などについては言及することを避けるべきとのことであった。

また,保存協会では報告書作成支援のソフトウェアを開発中とのことである。このソフトウェアは,Web上で必要事項を入力すると報告書のひな形に入力した事項が記入され,報告書としてアウトプットされるとのことである。現在,バグ等の確認を行っており,実用化はもう少し先になるとのことだが,報告書作成の簡便化のツールとしてぜひ期待したい。

4.まとめ

今回の研修会・講習会では,講義で劣化に関する基礎的な知見を教えていただき,また実習では劣化診断の流れや重要なポイント,機器の取り扱いなどを学ぶことができ,非常に有意義な講習であった。

今後,長期優良住宅制度の維持保全など,木材劣化診断の重要性がますます大きくなると思われる。そのような状況の中で,世の中に木材劣化診断士の価値を広めるため,今回のような研修で劣化診断の能力を向上し,劣化診断の実績を挙げていく必要があると感じた。また,診断作業を簡便化し,さらに高度な診断を行うためには,作業者の技術だけでなく劣化診断に使用する機器についてもさらなる開発・改良を進める必要がある。近年,講演会などの場で新しい測定機器の紹介がされており,今後の展開に期待したい。

最後になりましたが,講師の皆様,ならびに保存協会事務局の皆様に感謝いたします。また,一緒に参加された受講生の皆様,オブザーバーの方々にもお世話になりました。御礼申し上げます。

株式会社オーシカ 中央研究所
樋田淳平

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