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制度の沿革

「木材劣化診断士制度」がスタートしました!

(社)日本木材保存協会(以下JWPA)では,平成18年度から,木材の生物劣化(腐朽と虫害)の診断技術を木材保存に関わる技術者に講習し,一定の知識と技術を取得した者に「木材劣化診断士」の資格を付与する制度を発足しました。この制度はとりわけ保存処理木材(注入処理)の製造者が,使用下にある木材製品の維持管理を行うことにより,製造者としての社会的責任を果たすための活動の一環として開始しました。しかし木材劣化診断士は一般住宅や外構施設における木部の腐朽や虫害(生物劣化)の診断が担えるレベルの技術を習得することになっています。

このレポートでは木材劣化診断士制度とその背景,関連する諸資格との関連を解説します。木材劣化診断士制度の詳細は毎年見直しが行われ,変更がありますので,資格取得や資格者の活用に際しては,JWPA のホームページなどで最新の情報を確認してください。

木材劣化診断士の性格
  • 木材劣化診断士はJWPA が認定する資格です。
  • 国家資格・公的資格ではありません。
  • 資格取得には木材保存士の資格が必要です。将来的には,建築士など生物劣化診断に関連の深い公的資格を所有している人に対しても木材の劣化診断技術を講習したり,受験資格を与える予定です。
  • 資格取得には講習受講と試験に合格することが必要です。
木材劣化診断士ができること・できないこと

seido1-01.JPG講習会風景木材劣化診断士は,外構を中心する木質構造物の生物劣化(腐朽と虫害)の現況を診断する能力を持っています。また補修や修理に関する助言,改修や維持管理に関する助言を行うことができます。さらに木材劣化診断士が習得した診断技術は住宅などの劣化診断にも適用可能です。

一方,木材劣化診断士には以下のような行為をしないことが義務付けられています。

  • 構造物の寿命や危険度を断定的に評価すること
  • 診断結果に基づく補修などの措置を依頼者との同意なしに実行したり,させること
  • 補修・修理を意図的に誘導するような診断を行うこと
  • その他,技術者倫理や良識に反すること

木材劣化診断士は,医療の世界に例えれば,「医師」レベルの診断技術を持っていることが求められています。しかし建築物の補修や維持管理に対して総合的な責任を負う立場にあるのは例えば建築士や維持管理の責任者ですので,木材劣化診断士は,種々の手法で検査を行い,彼らに生物劣化に関する現況と所見を提供する立場にあります。

また「治療や投薬」に相当する修理などについてみると,木材劣化診断士の多くは修理の技術を有し,また講習会でも修理技術を習得しますが,原則として修理は木材劣化診断の行為には含まれません。従って木材劣化診断士は,現状では医療の世界でいう「臨床検査技師」のような位置づけにあります。

平成18年度の資格取得講習会と試験

資格取得には,2日間の講習受講と,試験に合格することが必要です。平成18年度の講習会は去る3月22日,23日に東京で開催されました。定員20名に対して,37名の応募がありましたが,会場の都合上,先着30名の方に受講・受験していただきました。

講習会の内容は下記のとおりです。

  • 外構など木質構造物の基礎
  • 診断技術総論と一次診断
    診断技術総論,視診・触診・打診と報告
  • 機器類を用いた二次診断(講義と実習)
    含水率計測,ピロディン,レジストグラフ,超音波伝播速度
  • 三次診断(精密診断)(講義と実習)
    腐朽診断キット,遺伝子による識別,その他診断最新技術
  • 診断技術の実務と展望

講習会の最後(2日目午後)に,基礎知識試験と論述試験(各1時間)を実施し,合格者(30名)が決定しました。既に合格者は,誓約書を協会に提出するとともに登録の手続きを済ましておられ,木材劣化診断士の第1期生を世に送り出すこととなりました。

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診断機器の実習風景
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木材腐朽診断キットの実習風景
木材劣化診断士の実務支援

JWPA では今後木材劣化診断士が診断に関して助言などを必要とする場合は,専門家を含め協会の委員会を中心にサポートする体制を整える予定です。一方,木材劣化診断士は年間の診断実務(件数や概要)を協会に報告して頂きます。協会は報告の蓄積に基づいて制度の改革や診断技術開発を行います。たとえば診断結果の第三者レビュー制度はまだ確立していませんが,今後の劣化診断実務の現状を分析しながら検討する予定です。

資格の更新と技術研修

木材劣化診断士の資格は3年間有効です。更新講習(1日)を受けることによって資格を継続できます。その他,日本木材保存協会では,木材劣化診断士が常に最新診断技術を習得し,その維持と向上をはかれるように以下のような事業を行います。

  • HP やメールなどで診断技術情報を発信します。
  • 見学会,実技実習や研修会を実施します。
  • 診断技術に関する研究や開発,診断マニュアルの改訂を行います。
  • 将来的には診断機器の認定,診断に関する賠償

責任保険などについても検討する予定です。

関連する資格制度と求められる確かで実際的な生物劣化診断

国内に優良な住宅のストックを形成し,その流通を促進するため,住宅品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の対象範囲が,新築住宅だけでなく既存住宅(中古住宅)までに広がり(平成14年8月),その現況や住宅性能を表示する制度が発足しています。これに伴い,既存住宅の性能評価や劣化診断が,独立した業務として成り立ち得るための体制が整いました。これを受けて関連の業界や団体では,住宅の調査にあたる現況検査や特定現況検査の実務を担当すべく,活動をはじめています。住宅の蟻害や腐朽に関する特定現況検査を担当する資格として蟻害腐朽検査員((社)日本しろあり対策協会)があります。同検査員はいわゆる一次診断を担当します。

また昨今では,戸建住宅の耐震診断や耐震改修の件数も増えつつあり,診断や改修に補助金が交付される場合もあります。国交省が監修し日本建築防災協会が提唱している耐震診断では,住宅の耐震性能の評価に際して蟻害や腐朽といった劣化を考慮することになっています。耐震診断を実施する資格は,建築士が所定の講習を受けて耐震診断士の資格を取得した建築士によって実施されますが,耐震診断の際には劣化診断の技術も必要になりつつあります。

また2003年の建築基準法の改正ではクロルピリフォス(有機リン系の防蟻剤)の使用が禁止されたり,ホルムアルデヒド規制が強化されるなどVOC 対策やシックハウス対策に重点が置かれています。これらは住宅における化学物質使用に関する問題意識が社会的に高まりつつあることを背景としています。シロアリ防除や腐朽対策についても化学薬剤のみに依存する方法からレスケミカルやケミカルフリーへと志向が変わりつつあります。今後は,診断・点検に基づく維持管理,リフォームや住宅売買などにおける劣化診断の重要性が益々認識されることになると思われます。そして,確かで実効性のある劣化診断技術の確立と,その技術者の育成が重要になり,木材劣化診断士は重要な位置づけになると思われます。

木材劣化診断士のように構造物などの診断実務を担う資格には,蟻害腐朽検査員((社)日本しろあり対策協会)の他,公園施設製品安全管理士や公園施設製品整備士((社)日本公園施設業協会),コンクリート診断士((社)日本コンクリート工学協会橋技術協会)などがあります。

木材劣化診断における責任と保証

住宅やエクステリアの劣化診断,とりわけ腐朽や虫害といった生物劣化の診断は,これまでリフォームやシロアリ防除作業の前段として,概ね無料・サービスで行われてきた工程です。そしてこれまで劣化診断そのものが独立とした有償の業務になることはあまりありませんでした。今後は,不動産売買やリフォームに際して劣化診断の結果を考慮したり,点検に基づく住宅の維持管理という流れが生まれると思われます。その結果,診断実務そのものが独立した有償の業務となる可能性もあります。またその際には,診断結果の保証や診断士の責任も明確化されるものと思われます。当面,木材劣化診断士は,劣化診断の結果について責任が問われる場合もあることや,簡単な診断でも,診断の条件,結果の扱いについて依頼者と合意を得ておく必要があることに留意して劣化診断を行うことになります。また専業で劣化診断を行う場合には,PL 法や民法にまで対応可能な賠償責任保険の設定も視野にいれなければなりません。

(社)日本木材保存協会では,劣化診断実務における契約や損害補償責任保険などについても情報を収集・分析し,木材劣化診断士に提供する予定です。

(社)日本木材保存協会
木材劣化診断士委員会
委員長 藤井 義久

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