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木材保存誌コラム
今年は蝉の鳴く時期が遅かったか?
虫めがね vol.51 No.5 (2025)
今年は蝉が鳴き出す時期が遅かったという人が多い。昆虫館なんかへも、
「今年のセミの初鳴きは遅いようですが、温暖化の影響ですか?」との問い合わせの電話が多かったそうである。
東京や福岡に住んでいるわたしの友人たちからも、今年は蝉の鳴き声が聞こえなくて淋しいと七月初めころメールを送ってきた。
この原稿を書いている八月初旬になると、すでにセミがあちこちで鳴いていて姦しい。わたしは兵庫県に住んでいるが、わが家の近くの公園を歩いていると、朝はクマゼミがワシワシと大声で鳴いている。昼頃に近づくとアブラゼミやミンミンゼミの鳴き声がこれに加わる。セミの仲間の大合唱である。そして、夕方になるとヒグラシのカナカナというのどかな鳴き声が聞こえるようになる。
わたしが大学に勤務していた時、大学には正門から学舎に至るまでにかなり長い坂道があった。坂道の両側には桜の木が植えてあり、この桜並木は蝉たちの絶好の繁殖場所となっていた。この坂道を毎朝登って出勤するわけである。この坂道で蝉の鳴き声が観察できた。それで二〇〇五~二〇一二年の八年間のクマゼミの初鳴きを記録していた。その記録を見ると最も早い年で七月十四日、遅い年で七月二〇日であった。平均すると七月一七日であり、大きな違いは無かった。今年はわが家の近くで初鳴きを観察したのは七月十六日であった。このようにクマゼミの初鳴きはかなり一定しているといえる。
クマゼミの成虫の寿命はわずか七~一〇日程度だが、地中で長い幼虫時代をすごす。幼虫は深さ三〇cm~一mの地下で五~七年もの長い間過ごす。その間に四~五回脱皮して地上に現れて羽化し、成虫となり産卵して一生を終える。地中が主たる生活の場所であり、地上へは産卵の為にわずかに顔を出すだけである。長い地中生活を過ごすので、その五~七年間の生育条件(温度や湿度)が幼虫としての成長に影響はするだろうが、今年は梅雨が早く明けたので早く地上に出ようなどと急激な対応は出来ないのかもしれない。
結論から言うと、今年の蝉は鳴く時期は格別遅くもなかった。しかし梅雨が早く明けてすぐに猛暑に入ったので、例年だともう蝉が鳴いている時期なのに今年は鳴くのが遅いなと感じた人が多かったのかもしれない。
♪梅雨明けを告げるか蝉がかしましい
(赤タイ)




