木材保存誌コラム

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樹木と昆虫

木くい虫 vol.40 No.4 (2014)

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筆者は子供のときから昆虫が大好きで、大学で昆虫学を専攻し、卒業後は殺虫剤や害虫防除に関する研究に従事してきた。退職後も昆虫の採集や観察を楽しんでいる。昆虫少年がそのまま昆虫老人(?)になった筆者には昆虫に数々の思い出がある。そんな思い出をコラム「木くい虫」に気ままに書かせていただいた。

本コラムで筆者が取り上げた昆虫はコウチュウ目が圧倒的に多かった。コウチュウには樹木害虫が多いと言うこともあるが、筆者の興味の対象に偏った傾向もある。樹木を加害する昆虫はコウチュウ目だけでなく、葉を食害するチョウ目やハバチ類の幼虫、茎葉から吸汁するカメムシ目、樹木に穿孔するボクトウガ等、多くの種がある。また、それらの害虫の捕食者、捕食寄生者など樹木をめぐっては多種の昆虫が複雑に絡み合っている。

筆者が執筆している間に起こった樹木害虫に関するトピックはカシナガシンクイによるナラ枯れ問題である。京都北山では大きなミズナラがほとんど枯死した。被害は年々広がり、今では筆者の自宅のある大阪府でもコナラの被害が広がっている。以前はマツノマダラカミキリによるマツ枯れの被害が騒がれており、樹木害虫も変遷するようである。

さて、最後のコラムを書くにあたり、初心に立ち返ってみよう。最初のコラムは「スギとカミキリムシ」という表題で、スギノアカネトラカミキリの思い出を書かせていただいた。ガマズミの花で最初に本種を採集してから既に30年以上になるが、そのときのことは鮮明に覚えている。当初は写真を載せていなかったので、本種の写真でこのコラムを締めくくりたい。筆者の駄文に長年お付き合いいただいた皆様に感謝申し上げる。

(M・H)

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カエデをめぐる昆虫

木くい虫 vol.39 No.6 (2013)

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近畿地方でも高い山では紅葉の季節を迎えた。里のカエデが色づくのももうすぐであろう。日本にはイロハモミジ、イタヤカエデ、ウリカエデ等20数種のカエデ科植物が分布しており、いずれも紅葉(種類によっては黄葉)が美しい。しかし、カエデの花を知っている人は少なく、ましてやそれを愛でる人はよほどの変人であろう。サクラが花吹雪となるころカエデ類は順次開花する。カエデの花は春の昆虫のご馳走であり、多くの昆虫が花粉や花蜜を求めて集まる。なかにはそれらの昆虫を狙う捕食者も含まれている。昆虫愛好家にとってはカエデの開花が観察・採集シーズンの幕開けである。

カエデの花から得られる昆虫の中でも筆者がとくに好きな仲間はカミキリムシである。カエデノヘリグロハナカミキリ(写真)という舌を噛みそうな名前のカミキリムシはなかなか格好が良く、最初に採集したときの感動は今でも忘れられない。今年の5月に信州伊那を訪れ、満開のカエデの花からハナカミキリ類、トラカミキリ類、ヒゲナガコバネカミキリ類等多くのカミキリムシ科昆虫を採集した。なかでもツジヒゲナガコバネカミキリは最近発見された稀種である。

カエデ類を加害する害虫の多くは葉を食害する種であり、それらは樹木を枯らすことはない。一方、幹や枝に穿孔して樹木を枯らす害虫もいる。なかでも厄介な種はゴマダラカミキリである。本種は農業分野では柑橘類の害虫として恐れられているが、宿主範囲がかなり広い。筆者の自宅の庭のイロハモミジも本種の加害をうけて枯死した。害虫防除の専門家(?)を自負する筆者にとってはまさに「灯台下暗し」であった。

(M・H)

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オトシブミ

木くい虫 vol.39 No.4 (2013)

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昔の人は思いを寄せる人に宛てた恋文を折りたたみ、その人が通りそうな場所にそっと落しておいたそうである。その恋文が「落し文」である。恋の成就は、意中の人が「落し文」を拾って読んでくれるかどうかにかかっている。なんとも奥ゆかしい。今の若者ならメールで済ませ、結論はすぐ得られるであろう。その「落し文」の名前を持つ昆虫がいる。○○オトシブミと呼ばれるコウチュウ目、オトシブミ科の昆虫である。オトシブミ科の昆虫は成虫が葉を巻きその中に産卵する。巻いた葉は揺籃と呼ばれ、孵化した幼虫はその揺籃を内部から摂食して成育する。いうなれば、揺籃は幼虫の食物兼住居である。幼虫が一生食べるだけの食物と安全な住処を確保する母虫の努力には頭が下がる。オトシブミという名前は、揺籃の形が「落し文」に似ていることに由来する。

写真はヒメゴマダラオトシブミの揺籃であり、左上の写真はその成虫である。本種はエノキやエゾエノキの葉を巻く。本種の揺籃は樹上に残るが揺籃を切り落とす種もおり、地面に落ちた揺籃はまさに「落し文」である。ヒメゴマダラオトシブミの揺籃は目立つが、本種の成虫を見かけることは少ない。エノキの葉は本種の他に、以前紹介したオオムラサキをはじめ、ゴマダラチョウ、テングチョウ等の幼虫の餌資源としても利用されている。

オトシブミ科はオトシブミ亜科とチョッキリ亜科に分けられ、オトシブミ亜科の全てとチョッキリ亜科の一部の種が揺籃を作る。日本には揺籃を作るオトシブミが約30種棲息しており、初夏の頃、クリ、クヌギ、コナラ、ブナ、エゴノキ、ケヤキ、ハギ等でオトシブミ類の揺籃を見ることができる。オトシブミ類の多くの種は樹木の葉を巻くので、樹木の害虫とも言える。しかし、消費する葉の量は少なく樹木が枯死することもないので、この可愛い昆虫のために大目に見よう。

(M・H)

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モドキとダマシ、似て非なるもの

木くい虫 vol.39 No.2 (2013)

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コウチュウ目の中には○○モドキ科、○○ダマシ科という名前の科がある。モドキやダマシは「似て非なるもの」という意味である。ゴミムシダマシはゴミムシに、テントウムシダマシはテントウムシに、ハムシダマシはハムシに、カミキリモドキはカミキリムシに、それぞれに似ていることを意味する。コメツキムシに似ているという意味のコメツキモドキとコメツキダマシという名の科もある。「どちらがコメツキムシにより似ているのであろうか?」と考えてしまう。さらにはニセクビボソムシやニセマキムシ(○○虫の偽者)というありがたくない名前の科まである。ニセクビボソムシ科はたしかにアリモドキ科のクビボソムシ類に似ている。いずれの組み合わせも近縁な仲間ではなく、他人(他虫?)の空似である。

ここで紹介するニホンホホビロコメツキモドキは、日本産のコメツキモドキ科で最大の種である。名は体を表し、本種は日本に分布し、頬が広い(雌の頬が左右で異型)。本種の幼虫はメダケを食害するため竹材害虫として知られているが、個体数はあまり多くなく、その被害が問題になることはほとんどないであろう。写真左はオオダイルリヒラタコメツキ(コメツキムシ科)で、写真右が主役のニホンホホビロコメツキモドキ(コメツキモドキ科)である。この両種が似ていると思うかどうかは読者次第である。

筆者はパナマに滞在中に美しいコメツキモドキを採集した(と思った)。帰国後ゴミムシダマシの専門家に見ていただいたところ、本種はコメツキモドキ科ではなく、ゴミムシダマシ科のAcropteron 属であることが判明した。昆虫の専門家を自負する筆者もみごとに騙された。コメツキムシに似ている(とされる)コメツキモドキに似ているゴミムシダマシである。こうなると、何がなんだかわからなくなる。

(M・H)

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樹洞の住人、オオチャイロハナムグリ

木くい虫 vol.38 No.5 (2012)

オオチャイロハナムグリ

ハナムグリとは「花潜り」のなまった名前であり、その名のとおりハナムグリ類には花に潜る種が多い。実際クロハナムグリやコアオハナムグリ等は庭の花上でよく見かける。しかし全く花を訪れず、もっぱら樹液から栄養を摂取しているシラホシハナムグリ等の種もいる。前者のハナムグリは花蜜を好む「甘党」で、後者の種は糖が発酵したエチルアルコール(お酒)を好む「辛党」といったところであろうか。中には花も樹液も訪れるシロテンハナムグリのような「両党使い」もいる。ハナムグリ類は直接樹木を加害することはないが、幼虫が朽木や樹洞内のフレークを食べる種が多く、樹木と関係の深い昆虫である。

ここに紹介するオオチャイロハナムグリは日本産ハナムグリ類の最大種であり、花を訪れないハナムグリである。本種の幼虫は大木の樹洞内のフレークを食べる。したがって成虫も樹洞内で見つかることが多いが、昼間には樹洞から出て飛翔することもある。天然林の伐採などにより樹洞を持つ大木が少なくなったためか、本種の個体数も減少しているようである。本種は本州、四国、九州に分布しており、近畿地方では高い山に棲息している。写真の個体は氷ノ山のトチの大木の樹洞内で採集したものである。筆者は紀伊半島や四国の山でも飛翔中の本種に出会ったことがある。

オオチャイロハナムグリ以外にも樹洞を住処にしている昆虫は結構多い。有名なヤンバルテナガコガネは沖縄本島北部のみに棲息し、シイ類の樹洞内で見られるそうである。ヤンバルテナガコガネは大変貴重な種であり、国の天然記念物に指定されている。ヒゲブトハナカミキリ、ベニバハナカミキリ、ヒラヤマコブハナカミキリなども樹洞棲の種である。樹洞に棲息する昆虫には希少種が多い。

(M・H)

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