木材保存誌コラム

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カラスは黄やオレンジ色が好き

虫めがね vol.50 No.1 (2024)

わたしは鳥類の生態について詳しい知識を持っているわけではない。それで、これから述べることは専門家から見ると間違っている内容があるかもしれないが、わたしが実際に体験し目撃した事である。

わが家の庭に一本の柿の木がある。毎年秋になると果実がみのり黄褐色に熟す。この柿の実が青いうちはカラスは寄ってこないが、熟して黄褐色になる頃からカラスはやって来て実を突っついている。これはヒヨドリやメジロなどの他の鳥類も同じで甘い柿を狙って食べにやって来る。これは美味しい食べ物に与ろうという自然な行為であろう。

わたしはゴルフが趣味で、月に数回はコースに出てプレーしている。数年前の事であるが、わたしの友人がドライバーでティショットをした。この球があいにく前方のバンカーの中に転がり込んだ。するとまるでその球が転がって来るのを待っていたかのようにカラスが舞い降りてきてそのゴルフボールを銜えるとそのままどこかに飛び去ってしまった。われわれの目前で起きたことであれよあれよと言う合間であった。この友人が打ったボールは鮮やかな黄色のボールであった。この時、わたしは白ボールを打っていたのでこんな被害には遇わずに済んだ。ゴルフのルールではこの場合、ペナルティ無しでカラスが持って行く前に在った位置に別のボールをリプレースするとの決まりがある。それにしてもカラスは持ち去ったボールを何に使うのであろうか。自分の巣に持ち込んで卵のように温めるわけでもなかろう。もしそうなら卵の色に近い白ボールを選ぶだろう。

わが家のベランダに一足のオレンジ色のサンダルが置いてあった。このサンダルがいつの間にか両足とも紛失してしまった。わが家の庭先まで入って来てたいして高級でもないサンダルを盗む人などが居るとも思えないので不思議に思っていた。ところが間もなく片方のサンダルが庭木の陰に落ちているのを見つけた。他方が無いなと思っていたら、それから数日後に家の庇の上にあるのが見つかった。このような所にサンダルを運ぶのはカラス以外には考えられない。ツバメやスズメにはサンダルは重すぎて運べまい。それにしても何が面白くてサンダルを持っていくのか想像もつかない。黄褐色の柿を突っつくのは食べてみようと考えているのだろう。ゴルフボールを持って行ったのは自分の卵に似ているので持って行ったとも考えることが出来る。ではオレンジ色のサンダルは何を思って持って行くのだろう。最近、都会に棲息するカラスは針金のハンガーを持って行って巣作りの材料にしている例があるらしいが、サンダルでは巣作りの材料には不向きであろう。全く不可解な行動であり、カラスに尋ねるしかなかろう。

♪風の音 鳥の声とのシンフォニー

(赤タイ)

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幻の柿「元山」

虫めがね vol.49 No.6 (2023)

わが家の小さな庭に元山がんざんという一本の柿の木がある。樹齢は三〇年近く、今では大きく立派に生い茂っている。毎年一〇月頃になると黄褐色の果実が枝をしならせて一杯実る。果実が褐色に色づいた頃になると、近くの森からメジロやヒヨドリなどが飛んできて、わが家の元山を勝手に突いて楽しんでいる。

柿と言えば富有柿や次郎柿などが有名で果物屋さんの店頭に並んでいる。これらの柿は糖度が高くて甘く一般消費者には好まれている。ところが元山はそれほど甘くない。だが、何だかほんわかとした素朴な甘味で、さわやかな食感があり、わたしは好きである。ところがこの柿のややこしい所は、柿が甘いか渋いかは外見からは分からない。果実を包丁で二つに割って中に真っ黒いゴマ(黒い斑点)が入っていれば甘い。このゴマが無い実に当ると渋柿である。わたしはこれは樹木の枝の違いで、ある枝の実は甘くて、別の枝の実は渋いのかと思っていたが、どうもそうでもないらしい。柿が沢山実ったら近所の知人に配ることがあるが、渡す時に「この柿は甘いか渋いかは運ためしです」と予め説明して渡している。そうしないと、「こんな渋柿を持ってきて!」と恨まれる心配がある。

なぜこんなややこしい柿がわが家にあるのかと言うと、わが女房が生まれ育った実家(大分)の庭に元山の柿があって子どもの頃に良く食べていて美味しかった。それを思い出して義父に頼んで苗木を送ってもらったようである。わたしの実家(福岡)には富有柿の木があって子どものころ良く食べたのを覚えているが、元山の柿は食べたことがなかった。

インターネットで調べてみると、この柿は佐賀県原産で「伽羅柿(きゃらがき)」という不完全甘柿である。福岡県筑後地方では「元山」と呼ばれている。昭和天皇がお好みで佐賀県では皇室に献上したとあった。昭和天皇には柿を割ってゴマが無いのは渋柿なので食べないように言上する必要があるかもしれない。もっともお付きの人が皮を剝いて選別して天皇に差し上げたのだろうからそんな心配は要らないだろう。

また、これは江戸時代からある品種で、半野生の木のようで、果実は毎年生るわけではなく、良く実った年の翌年は実を結ばない。まったく気ままな樹である。

沢山採れた年には、東京や西宮に住んでいるわが娘たち家族にも宅配便で送っているが、子や孫たちは糖度の高い富有柿などに慣れているせいかあまり人気が無いようだ。

これから二〇年、三〇年先までもわが家の元山は、わたしが生きている間は楽しませてくれるよう願っている。

♪水をやる この木にいつか果が実る

(赤タイ)

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運転免許証の自主返納

虫めがね vol.49 No.5 (2023)

わたしはこの五月中旬に最寄りの警察署に行って自動車の運転免許証を返納した。高齢者の自動車事故が多発しており、わが女房の強い希望に沿って返納する決心をした。

警察署に行って窓口で免許証の返納を申し込むと係官(女性)は、「はい、ここに住所と名前と生年月日を書いて」、そして「返納の理由のところには、今後運転しないためと書いて」、「はい、これで終わりです」といかにも事務的で味気ない。こちらは五十年以上無事故で運転してきた免許証を一大決心して返納に来たのである。しかも免許証はゴールドである。「長い間お疲れ様でした」とか、何らかの労いの言葉があっても良さそうなものにと寂しい思いがした。警察署にそんなことを期待しても無理なことは十分分かっているが・・・。

警察署からの帰途はもちろん車の運転は出来ないので、バスと徒歩で帰るわけだが、自分の体から何か大きな力が抜けていったような「オレの人生も黄昏に差し掛かったのかな・・・・」と寂しい気持ちになった。太陽は東から上がって西の空に沈むが、オレは西日のどのあたりだろうか?

わたしが住んでいる市では高齢者が運転する自動車事故を減らすために「高齢者運転免許自主返納キャンペーン」というのを今年から開始した。満七〇歳以上の高齢者が運転免許証を自主返納したら、公共交通機関で使える五千円分のポイントカードが市役所から送って来た。これはせめてもの供養というものであろうか。

思い起こせば、この免許証はわたしが大学四年生の時に取った。自動車教習所が大学に隣接したところにあったので、授業の合間に大学を抜け出して隣に行って運転の講習を受けたのを覚えている。免許証を取得したら、すでに免許証を持っている学友たちと夏休みなどを利用して車で長崎観光や阿蘇・久住高原ツアーなどを楽しんだ思い出がある。

高齢者用に開発された電動アシスト付き三輪自転車というのがあるようだ。スピードがあまり出ず安全で、近隣の店に買い物に行く時なんかに便利なようだ。しかし、これも身体機能が低下したわたしには危険に思えるので利用しないことにしている。これからはどこに行くにも女房にお伺いを立てて、女房の運転する車に乗せてもらうか、バスと徒歩で出かけることになる。ちょっとした買い物に使うリュックも新しく購入した。健康の為にも足腰を鍛える為にもこれを背負って"あるけ、歩け"で行こうと思っている。

♪まだまだと米寿祝いの柿植える

(赤タイ)

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コラム「虫めがね」九〇回目

虫めがね vol.49 No.4 (2023)

わたしのこのコラムの第一稿は第三三巻第三号(二〇〇七年)に掲載されたので、それから足掛け一七年で、今回がちょうど九〇回目となる。一七年とはよくぞ続いたものだと自分でも思うが、雑誌「木材保存」の発行が二ヵ月に一回であり、このコラムを書くのに大して負担にならないことが大きな理由であろう。

わたしは満六〇歳で某化学会社を定年退職し、その後ある私立大学に再就職した。社内のあちこちのお世話になった人たちに退職の挨拶をして回っていたら、ある女性から「これからは大学で若者たちを相手の仕事になるので、企業時代の渋い色のネクタイは全部捨てて、赤いネクタイを締めて若返って出発して下さい」との助言をもらった。この助言に従って、赤いネクタイを数本買い、それを締めて新しい職場に赴任した。このコラムのペンネーム(赤タイ)はこれに由来する。

このコラムの前任者は「木くい虫」のコラム名で書いておられたようだが、わたしは編集委員の方と相談して「虫めがね」にしていただいた。日頃、身近に見ている何でもなくて見過ごしている物でも、虫めがねを通して見てみると違った世界が見えてくるという意味合いでこの名にした。

このコラムを引き受けた当初の頃は、「木材保存」の購読者は生物系の人が多いのではないかと考えてコラムのテーマを生物に因んだ内容にしようと心掛けた。ところが何年か書いているうちに、元々、生物が専門でないわたしには原稿のネタが枯渇してくるのに気が付いた。このままではこれから先コラムが書けなくなるのではないかと心配になった。それでいまでは方針転換して生物絡みに縛られないで、その時、その時の思いつくテーマで自由に書くことにした。これもコラムが続いた理由の一つであろう。

わたしは十年ほど前から朝日カルチャーセンターの川柳教室に通って川柳を学び始めた。その動機は人生のそれぞれの節目で見たこと、聞いたこと、感じたことなどを十七文字に濃縮して言葉にすることに興味を覚えたからである。近頃は新聞の川柳欄に投句して、ときどき掲載されるようになった。このコラムの読者にも読んでもらいたいと思うようになり、このコラムを書く時に、その最後の行にこっそりと一句を加えることにした。それは第四一巻四号(二〇一五年)から始めたが、「木材保存」の読者の方々にとっては下手な川柳を読まされて大変な迷惑と思うが、申し訳ないが見逃して欲しい。

♪川柳の着想拾う万歩計

(赤タイ)

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わたしは蚊に刺されやすい

虫めがね vol.49 No.3 (2023)

わたしは蚊に刺されやすい体質だと自分では思っている。夏の夕方に近くの盆踊りを見に出かけると、腕のあちこちが赤く腫れて痒くてたまらない。周囲にいる人たちを見ると大して蚊などは気にせずに盆踊りを楽しんでいる。また、夕涼みを兼ねて散歩に出かけると、同じように腕や脚が刺される。昔の話になるが、わたしが仕事でイタリアに出張した時に、夕暮れ時に屋外で仕事をすることになった。夏だったので半袖シャツを着ていたが、わたしは両腕のあちこちが蚊に刺されて"ぷくっ"と赤く腫れて痒くてたまらなかった。一緒に仕事をしていた同僚のイタリア人男性はわたしの腕を見てケラケラと笑っている。彼は何ともないらしい。

蚊は人から吸血する際に口吻の針を人の皮膚に刺し込むと、目的をスムーズに達成する為にまず針を通して唾液を人体に注入する。この唾液には人が吸血されているのを感じさせないように局所麻酔剤や、吸血中に血液が固まらないように血液凝固抑制物質、それに消化液などが含まれている。これらの物質(タンパク質)は吸血される側の人体にとっては異物であり、その異物に対するアレルギー反応として人の皮膚は赤く腫れて痒くなる。アレルギー反応なので異物を攻撃しようとする免疫機構が働いてIgE抗体ができる。この免疫反応には個人差があって刺されると過敏に反応する人や無反応の人もいるらしい。無反応の人は当然赤く腫れないし痒くはならない。

蚊が人に近づくのは、遠方からは人の呼気からでる二酸化炭素や体表から出る汗などの水分、汗に含まれる乳酸やオクテノールに誘引されて近づく。ある程度近づくと、人の体温や色を感知して近づく。肌の色は白いよりも黒い色(黒人や日焼けした人)に惹かれるようだ。

つまり、蚊に刺されやすいと感じている人は蚊を誘引しやすくて、さらに刺された後の免疫反応の敏感さの両方が関与しているようだ。

わたしの場合、イタリアの例ではイタリア人(白人)よりわたし(黄色人)の方が肌の色が黒いので刺されやすいと言えるかもしれないが、日本でも盆踊り見物などで刺されやすいと感じるので、体表からでる汗や呼気に含まれる誘引物質が多いのと免疫反応の過敏性によるのではないかと思っている。

♪順風に逆らい飛ぶか赤蜻蛉

(赤タイ)

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