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診断技術の研修会の見聞録

第1回木材劣化診断士研修会に参加して

1.はじめに

木材劣化診断士の診断技術のレベルアップを目的として,第1回木材劣化診断士研修会が,平成20年9月5日に東京都内の公園で開催されました。 

JR 総武線平井駅南口から約10分,東京都江戸川区平井3丁目南児童遊園での診断の実習と,平井コミュニティ会館での講義,後日の報告書提出という構成でした。

当日は天候に恵まれました。屋外実習と講義に16名が参加しました。

研修会のお話の前に,木材劣化診断士について少し説明させて頂きます。

木材保存士資格者を対象とした木材劣化診断士資格が日本木材保存協会により平成18年より創設されました。一期生30名がメルパルク東京で2日間の資格検定講習を受講しました。

弊社は関西に本社があります。平成13年の阪神大震災の被災者・知人も多く在籍しています。一昨年に資格創設・受講者募集の案内を頂いたときに,新しい診断士の資格とは,耐震診断に近い位置づけなのか,また別のものか,社内の多くの人から興味を持って質問されたことを思い出します。

年が経つごとに木材劣化診断士という名称・資格が浸透してきた感じがしています。既設物件の点検改修打合せに「劣化診断士資格者に来て欲しい」という声がかかることもあり,認知の度合いが上がってきたなと実感します。平成19年講習にも2名が参加させて頂き,今年平成20年度も途切れることなく,9月の資格認定講習を受講させて頂いています。

この資格は,木材劣化診断士資格認定講習で,木材の生物劣化(腐朽と虫害)の診断技術を木材保存に関わる技術者に講習し,一定の知識と技術を取得した者に付与する資格です。とりわけ保存処理木材(注入処理)の製造者が,使用下にある木材製品の維持管理を行うことにより,製造者としての社会的責任を果たすための活動の一環として開始されました。

資格者は,外構を中心とする木質構造物の生物劣化(腐朽と虫害)の現況を診断する能力を持ちます。また補修や修理に関する助言,改修や維持管理に関する助言を行うことができます。診断技術は住宅などの劣化診断に適用可能です。

一方,資格者でもできないこととしては,寿命や危険度の断定的評価,診断結果に基づく補修などの措置を強制的に実行したりさせること,補修を誘導するような診断を行うこと,技術や制度上不可能なことや良識常識に反することなどです。資格の品位を落とす診断商法的な行為が禁止されているわけです。

今回の研修に際し,平成18年資格講習のテキストを見直しました。

  • 外構など木質構造物の基礎
  • 診断技術総論と一次診断
  • 機器類を用いた二次診断
  • 三次診断
  • 診断技術の実務と展望


相当中身の濃い講習と試験だったと思います。名前しか知らず,また理屈がよくわからなかった二次診断機器類,含水率計,ピロディン,超音波測定器,レジストグラフに触れた体験は貴重でした。精密診断に用いる,木材腐朽菌を特異的に検出する抗原抗体反応利用の木材腐朽判定キットに触れる機会も普通はありませんので勉強になりました。

基礎と理論は身についたかもしれません。しかし実務に活かし,応用・展開できる力量の不足を感じることもあり,そのきっかけになればと今回の研修に参加させていただきました。

2.研修のアウトラインと先生のお話

JR 総武線平井駅南口に集合しました。関東圏対象の企画でしたが,関西圏さらに島根,岡山からの参加もあり,総勢16名でした(写真1)。お世話いただいた日本木材保存協会の竹内さんの点呼の後に研修場所の南児童公園に移動しました(写真2)。

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写真1 集合場所のJR 総武線平井駅
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写真2 平井南児童遊園

現地で,京都大学の藤井先生,横浜国立大学名誉教授の矢田先生,森林総合研究所の原田先生と合流しました。図面・機器類を用意いただいていました。ここに今回お世話になった江戸川区環境促進事業団課長補佐の安西慎司さんが加わり計20名での研修です。

藤井先生から,今回の第1回木材劣化診断士研修会は木材劣化診断士の診断技術レベルアップの目的であるとの説明を受けました。資格取得してから実際に診断をする機会が少ない人も実際にやってみてくださいと,履歴の明確な対象,企業単位では必ずしも備えていない機器類の使用,記録・判定・報告を身につけるきっかけにとの概要説明を受けました(写真3,4)。

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写真3 南児童遊園にて矢田先生,原田先生
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写真4 診断対象のコンビネーション遊具を前に

一次診断,二次診断(含水率計測,超音波測定,レジストグラフなど)を用いた診断の実習のほか,診断報告書の書き方についての講習であること,また,劣化診断に関する最近の話題にも触れます,とのお話でした。

3.実習:診断対象と道具だて

調査方法説明を受け実地調査を始めました。調査は3班に分かれて行いました。矢田茂樹先生と,原田真樹先生の指導も頂きました。高周波式含水率計,超音波測定器,レジストグラフを各班で実習に用いました。

診断対象は昭和60年夏(1985年),23年前に設置されたスギ丸太製(CCA 加圧注入材)のロープウェイとコンビネーション遊具です。参加者は自前のマイナスドライバーやルーペを手に研修に参加しました。班分けをしました。

 1班 ロープウェイ 着地側
 2班 コンビネーション遊具
 3班 ロープウェイ スタート台

3.1 一次診断

一次診断とは,見て,触って,叩いて,突き刺して,という昔ながらの最も慣れ親しんだやり方です。マイナスドライバーなどを使います。経験が重要視されます。診断の進め方を決める手始めです。

我々2班は,スギ丸太のコンビネーション遊具を診断しました。何箇所かはすでに交換されていますが,主たる柱φ180mm は経過年数の割りに極めて健全でした。あらためて加圧処理の効果を認識しました。

あらかじめ先生方の手で,主要構造材にはナンバリングをして頂いており,図面も連番が反映されたものを用意いただいておりました。

実際に診断をされた方はお分かりと思いますが,診断は準備段階での情報量で成否のあらかたが決まると感じています。診断は依頼を受けたときから始まり,報告後のフォローで終わる。依頼を受けた場合,まず物件ファイル,記録,図面資料探しから始められるでしょう。建築後何年経っているか,材料は何か,樹種,素材か処理材か,処理の程度はK3かK4か,薬剤の種類は,改修の履歴はあるか,担当者がいれば直接話を聞きます。

担当者の記憶に残っていれば,事前に相当具体的なイメージがつくれます。対応の協議もして,ワーストケースに備えます。図面で,方位・方角,雨かかり,被覆(樹木の陰などで陽があたらず乾きが悪い)リスクの高い場所はどこにあるかも確認します。
今回の研修では,もっとも時間のかかる部分を準備いただいており,先生方の的確なナンバリングのおかげで,迷うことなく実習に専念できました。診断野帳(測定一次診断用チェックシート)まで用意していただいていました。表面性状,変形や破壊,付着物,触感・打音・突刺し診の様子を書くようになっています。1番から29番まで,2班を3つに分けて調べました。経過時間の範囲で許される程度の劣化という感じです。ボルトナットが頑強に固定を担っているし,交換したスギ床板38×140mm もがっちり固定されていたことも印象的です。辺材部分で割れが認められるところ,心材部分で落ち込みが認められるところがありました。割れは,深さがどれぐらいに達しているか,これから広がるものかどうかを見ました。特に,強度が低下していないか安全性を中心に見ました。

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写真5 ロープウェイスタート台
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写真6 ロープウェイ着地側

3.2 二次診断

高周波式含水率計MOCO2を使用しました。ケット社製HM520です。直交する2方向から測定します。測定結果は,機器担当と記録担当で手分けして記録しました。13%から31%の範囲でした(写真7)。

診断箇所が高含水のときなどは,最近の降雨の影響かどうか気になることがあります。常態として水分が抜けにくい使われ方かどうかも気になるものです。1から10番までの,直径180mm の丸太の含水率を調べました。南北と東西,直交する向きで測定しました。節や割れのない健全部分を選びました。

超音波測定器でも2方向で測定し記録しました。機種はCNS FARNELL PUNDIT 7です(写真8)。89から247マイクロ秒という数値が得られました。

高周波式含水率計と超音波測定器のいずれでも異常値を示す部位を選んで,レジストグラフでの測定を実施しました(写真9)。

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写真7 含水率を同じ高さで南北と東西2方向測った
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写真8 超音波測定器1測点高さ2方向南北
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写真9 レジストグラフ2測点高さ2方向南北 
 

錐で穴をあけながら木材内部に進行し,発生するトルク(穿孔抵抗)をモニターするもので,劣化による強度低下の位置,低下レベル,範囲を知ることができます。トルクが低いとチャート上のトルクの振れが小さくなります。いずれも健全でした。柱類の含水率,超音波,および抜き取りのレジストグラフのデータをまとめ,実習を終了しました。

4.場所を会館に移して

実習場所の平井三丁目南児童公園から15分,平井の町を移動し,場所をコミュニティ会館に移し,データの分析と報告書の作成を行いました(写真10,11)。

 報告書を書く上での注意を藤井先生から教えていただきました。

  • 一次診断の結果は,性状を言葉で表したもの。
  • 求められる結果は現況である。
  1. 明らかな腐朽・虫害
  2. 腐朽・虫害の可能性あり
  3. 現在は腐朽や虫害の兆候は認められないが,劣化促進環境にある
  4. 劣化の兆候は認められない
  • 報告書における現在,過去,未来をおさえる。計測調査の現況(現在),劣化発生原因推定(過去),寿命・安全度(未来予測)。
  • 「とりかえても同じ環境なら,同じことが起こり得ますね」という判断は親切。

最後に江戸川区の都市公園の点検業務の紹介を,江戸川区環境促進事業団の安西慎司氏から聞きました。

江戸川区の区立公園・児童遊園数は432園あります。昭和50年に今回の平井3丁目南児童遊園が開園しました。遊具の点検は,1.日常点検と2.定期点検を行っています。日常点検は公園維持管理委託業者と職員巡回で,定期点検は遊具点検専業者である公園施設協会で平成19年より年2回実施され,初回は全園対象で,第2回目は抜粋で行っています。判定基準はA:異常なしから,D:重要な部分に異常または全体に老朽化,至急対処が必要までの4ランクで見ています。国は遊具の安全にシビアーになってきており,自治体に点検をするように要求があります。江戸川区は比較的取り組みが進んでいます,との貴重なお話でした。

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写真10 会館にて藤井先生のお話
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写真11 (財)江戸川区環境促進事業団安西氏のお話
5.まとめ

何が言えるか,何が言えないか。改修の履歴があれば調査上の理解が深まるのではないか。会館での質疑では,現場に立つ同業の方のリアルな悩みが聞けました。

最後に藤井先生から,表現・文言についての注意というお話がありました。

  • 現況は,症状の客観的な報告である
  • 劣化と断定できる症状と,可能性がある場合とを明確に区別する
  • 一次診断で腐朽と判定できるのは相当症状が進んでいる場合である
  • 強度低下というよりは,材料の欠損率の評価がわかりやすい
  • 一次診断で劣化が疑われる部位には「要二次診断や経過観察と再診断が必要」と判定してみよう
  • 強度性能の評価方法は今後の課題である

今回の実習,講習の内容は,普段なかなかできない経験でした。日々の業務に活かせる様に,少しずつ自分のものにしていきたいと考えます。

お世話いただきました矢田先生,藤井先生,原田先生,(財)江戸川区環境促進事業団の安西さん,(社)日本木材保存協会の竹内さんにお礼を申し上げるとともに,一緒に参加された研修生の皆様のご協力に感謝いたしております。どうも有難うございました。

越井木材工業株式会社品質保証室
田中 康則

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