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診断技術の研修会の見聞録

第9回木材劣化診断研修会・兼更新講習会に参加して

1.はじめに

2013年(平成25年)7月4日㈭,第9回木材劣化診断実地研修会・兼更新講習会が茨城県つくば市の独立行政法人森林総合研究所(以下 森林総研)で開催された。本研修会・講習会は,生物劣化(腐朽・虫害等)を受けた木材の診断方法を講師の方々の指導を受けて実際の作業を行いながら身につけるというもので,普段はあまり触ることのない高価な診断機器を使用でき,サンプルとして適切な劣化木材を診断できる貴重な機会である。また本研修会・講習会は,3年毎に更新が必要な木材劣化診断士資格の更新講習会も兼ねている。筆者は平成22年に木材劣化診断士資格を取得しており,今回はその更新の時期ということもあり参加した。筆者は住宅改修関連の業務を行っている関係で住宅の木材劣化診断を行う機会が多く,劣化診断機器を使用することもあるが,その使用方法や劣化の判断について迷うことも多く,今回の研修は木材の劣化診断を基本から学び直す良い機会でもあった。以下に研修会・講習会の概要を報告する。

2.研修会概要

受講者は24名で,住宅や外構に木材を使用する業種,木材を加工・販売する業種,防腐・防蟻薬剤を製造販売する業種に属する者が多かった。

講師は,京都大学農学部の藤井義久先生,横浜国立大学名誉教授の矢田茂樹先生,京都大学農学部の藤原裕子氏,森林総研の原田真樹氏,東邦レオ株式会社の永石憲道氏の5名であった。

今回の研修の主な目的は,木材劣化診断の中でも二次診断の手法を実際に体験して,習得することである。目視,打診,触診といった簡単な方法で建物などの全体を診断するのが一次診断で,そこで更に詳細な診断が必要とされた部分に対して,診断機器を用いて実施する診断が二次診断である。一次診断に比べて手間が掛かるが,ある程度定量的なデータを得られる重要な診断方法である。

3.研修内容

10時半に会議室に集合,午前中は矢田先生及び永石氏を中心とした木材劣化診断機器の概要についての講義であった。午後は実験棟に場所を移し,診断用の劣化木材を用いて各種機器による実習を行った。実習後は再び会議室へ移動して実習の結果報告,および藤井先生による報告書作成方法についての講義を受けた。

3.1 機器概要説明

写真1 講義風景

実習に使用する含水率計,ピロディン,超音波測定器,レジストグラフについて,それぞれの測定原理や操作方法などの説明を受けた。以下に各機器の説明内容を記す。

3.1.1 含水率計

木材の含水率を測定する機器で,高周波式と電気抵抗式がある。含水率は基本的なデータであることや,測定が比較的簡単であることから,一次診断に入れるべきではないかとの意見があるとのことであった。また電気抵抗式の含水率計の場合,測定直後から数値が変化していく現象があるが,それは測定針を差し込んだ直後から接触状況が変化していくことが原因で,測定初期の値を採用することが正しいとのことであった。

3.1.2 ピロディン

ピロディンは一定の力でピンを打ち込み,その打ち込み深さで材の劣化を診断する機器である。比較的簡単に測定出来るが,密度や年輪方向により測定値は変化し,健全材の標準値などは確定していないとのことであった。診断対象の健全部と劣化部の比較などで判断すべきであるとのことであった。

3.1.3 超音波測定器

超音波が伝わる時間を測定する機器で,内部に空洞がある場合は超音波が迂回して時間が長くなるなどの変化が見られる。木の構造部材が剥き出しのものに対して有効で,健全部に比べて測定値が約1.8倍を超える場合には交換が必要とのことであった。

3.1.4 レジストグラフ

細い錐で穴をあけて,その穿孔抵抗と深さを記録して内部の劣化を診断する機器である。使用上の注意,刃の交換時期や交換方法などの説明を受けた。密度が1.0g/cm3を超えるような硬い木材を測定する場合は,刃の先端が磨耗したり折れてしまったりすることがあり,深さ5cm ほど測定して健全ならば測定を終了するなどの工夫が必要であるとのことであった。磨耗した刃のサンプルを見せて頂いたが,普段見ることの出来ないもので参考になった。

今回の実習では使用しなかったが,600mm の深さを測れるレジストグラフの現物を紹介して頂いた。予想以上の大きさであり,使用状況は限定されると感じた。

3.2 劣化診断機器実習

24名の参加者が4班に分かれ,ぞれぞれの班に講師の方がついて頂き,森林総研内の実験場に用意された劣化木材サンプルを対象として診断機器実習を行った。

サンプルは2種類で,ひとつは中央部に鋼板挿入ドリフトピン接合の継手を有した針葉樹集成材で,試験用に作成され森林総研の屋外で曝露されていたものである。もうひとつは木橋に使用されていたボンゴシ材で,劣化したために撤去されたものである。

始めに集成材の診断を行った。集成材は診断対象長さが2m あり,実際の二次診断に近い流れで行った。まずは長さ方向に一定間隔で含水率,超音波,ピロディンの測定を行い,それらの測定値と,目視や打診による診断から劣化の進行が疑われる部分を絞り込み,レジストグラフによる測定を行った。


写真2 実習風景

写真3  使用した診断機器(左から超音波,
     ピロディン,高周波式含水率計,
     電気抵抗型含水率計)

写真4 診断した集成材

写真5 ピロディン測定風景

含水率,ピロディンによる測定は特に難しくなかったが,超音波については接触子の押し付け方で測定値が変化することや,使用した機器の特性で,測定値がひとつに決まらずに常に変化することから,測定や診断に慣れが必要であると感じた。

診断結果としては,著者が属した班の測定では,含水率に異常は見られず,超音波,ピロディンでは接合継手付近で異常と思われる値が得られた。異常と思われる部分をレジストグラフで測定したところ内部劣化が測定され,劣化診断の有効性を確認することが出来た。他班についてもほぼ同様の結果を得られたようであった。

続いてボンゴシ材の劣化診断を行った。用意されたサンプルは内部腐朽が顕著で,それが木橋に使用されたボンゴシ材の特徴的な腐朽形態であるとのことであった。


写真6 超音波測定風景

まずピロディンで測定してみたが,打ち込み深さは数ミリにしかならず,表面に健全な部分が残っている場合,内部の腐朽は検知出来ないことが分かった。そこで超音波による測定を行ったところ異常な値を示し,劣化の疑いがあることが分かった。続いてレジストグラフで測定すると,表面で大きな穿孔抵抗を示すが内部ではほとんど抵抗無く進み,劣化していることが検知出来,レジストグラフによる診断の有効性を確認出来た。

ボンゴシ材が内部腐朽する理由については,密度が高く材が硬いため,木口などから内部に浸透してしまった水は乾燥しにくく,表面だけは比較的乾くが,高含水率に保たれた内部だけ腐朽が進行してしまうとのことであった。


写真7 レジストグラフ測定風景

写真8 ボンゴシ材の断面
3.3 結果報告,報告書作成注意点説明

実習後,再び会議室に移動し,班ごとに診断結果報告を行った。また,劣化診断報告書の書き方と注意点について説明を受けた。

劣化診断報告書の注意点としては,劣化の原因やその補修について助言することは良いが,寿命や安全性について言及することは避けるべきとのことであった。

4.まとめ

講義では実用的な知見を教えて頂き,また実習においては普段触ることのない診断機器を実際に使用して診断の効果を実感出来たことなど,非常に有意義な講習であった。

近年,普及が進んでいる長期優良住宅制度の条件に維持保全が含まれていることや,国が促進している既存住宅の流通に,保証のためのインスペクションが必要であることなど,木材劣化診断がますます重要になってくると藤井先生が仰られていたが,そのような状況に備えて,今回のような研修で木材劣化診断士の価値を高めていくことが重要であると感じた。戸建住宅向けの劣化診断方法などは改良の余地が残されているとも感じており,今後は木材劣化診断士の活動が充実することで現場からのフィードバックが増え,診断技術がさらに向上していくことを期待したい。

最後になったが講師の皆様,及び木材保存協会事務局の竹内様に感謝の意を表して,本報告の結びとさせて頂く。

住友林業株式会社 筑波研究所
小椋健二

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