木材保存誌コラム

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セミは樹木の害虫か?

木くい虫 vol.37 No.4 (2011)

37-4_kikuimushi.jpgセミといえば夏の風物詩であると思っている人が多いだろう。梅雨明けを待ちかねたようにニイニイゼミが鳴き始め、クマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミと続き、ツクツクボウシが鳴きだすと夏休みの宿題を早く終わらせようとあせり始めた小学生時代が懐かしい。しかし、セミは必ずしも夏にだけ羽化するものではなく、筆者の住む大阪付近では5月の連休明けからハルゼミが鳴きだし、秋に羽化するチッチゼミは10月いっぱい鳴いている。八重山諸島では3月には日本最小のセミであるイワサキクサゼミ(写真右)が鳴き始め、最も遅く出現するイワサキゼミは12月頃まで見られる。

セミの幼虫は土中で樹木の根から汁液(篩管液)を吸い、成虫も樹木の枝や幹に止まり汁液を吸う。すなわち、セミは樹木の害虫と思われるが本当にそうであろうか?セミの大発生で樹木が枯れたということは聞いたことがない。しかし、果樹園では時に大発生をして果樹を弱らせる。長野県のリンゴ園ではアブラゼミの大量発生によりリンゴの木が衰弱したことがある。園芸試験場ではその対策(?)として「幼虫のから揚げ」を缶詰にして売り出したそうである。残念ながら筆者は食べたことがないので、その味を論評することはできない。前出のイワサキクサゼミは名前のとおり草本(ススキ等のイネ科植物)から吸液する種であるが、今やサトウキビの大害虫になっている。すなわち、セミは樹木害虫というより、農園芸害虫になりうるという方が適切であろう。

ところで、世界最大のセミはテイオウゼミ(写真左)という種でマレー半島等に棲息している。頭から翅の先まで10㎝以上もある大物で、当然鳴き声も大きい。筆者はマレーシアのキャメロンハイランドで本種を採集したことがあるがその大きさにびっくりした。生きたテイオウゼミを手に乗せたときの感覚を今でも忘れることができない。日本最大のセミであるクマゼミと比べても2倍くらいの大きさであり、日本最小のイワサキクサゼミと比べてみる(写真の左右)のも面白い。

(M・H)

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木材とゴキブリの意外な関係

木くい虫 vol.37 No.3 (2011)

37-3_kikuimushi.jpgゴキブリというと、見るのも聞くのもいやだという人が多いに違いない。実際チャバネゴキブリやクロゴキブリ等は家屋内に棲息し、ポリオウイルスや消化器系伝染病を媒介する衛生害虫である。しかし、直接的な害よりもむしろ不快感を与える虫として嫌われているのではないだろうか。ゴキブリ目昆虫は熱帯地方を中心に世界で約3500種知られており、日本からは50 種以上記録されている。屋内に棲息する種はそのうちの1%以下であり、大部分の種は野外でひっそり生活している。わずか1%以下の「悪者」のために、人から目の仇にされる多くのゴキブリ達に同情するのは筆者だけであろうか。

ここではゴキブリと木材の関係について述べる。オオゴキブリ(写真)は体長4㎝ 程度の名前のとおり大きなゴキブリである。森林の倒木や枯死木中で、幼虫も成虫も一緒に集団生活を行っている。彼らは木部の朽ちた部分を餌資源として利用しており、炭素循環の一翼を担っている。シロアリのような社会性を持つわけではないが、亜社会的と言えるような生活をしている。野外でオオゴキブリを観察していると、シロアリに近縁であることを改めて感じる。筆者の知るかぎり、日本で木材を食べる種はオオゴキブリだけであるが、熱帯地方には木材を食す種が結構あり、森林生態系において重要な役割を果たしている。

ゴキブリは熱帯起源の昆虫であり、大阪付近の野外には、オオゴキブリ、モリチャバネゴキブリ、ヒメクロゴキブリ程度しか棲息していないが、南西諸島に行くと多くの種が見られる。中でもルリゴキブリは瑠璃色に輝き、タマムシを思わせる魅力的な種であり、本種を石垣島で初めて採集したときの感激を忘れることができない。筆者の標本箱にはルリゴキブリ、ヤエヤママダラゴキブリ、コマダラゴキブリ等の「綺麗どころ」が並んでいる。これからもゴキブリと付き合っていくことであろう。

(M・H)

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