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Quarantine(検疫)

虫めがね vol.46 No.4 (2020)

海外旅行で目的地の空港に着くと、まず、「Quarantine」と、何とも英語らしくない表示のある所に行く。検疫するところである。熱があるとか、何らかの健康上の異常がある人は申告して検査を受けるが、通常は予防接種証明書を示して終わる。次に、「Immigration Control」の表示の所に行き、パスポートを提出し検査を受ける。最期に「Customs」の表示の所に行き、手荷物検査を受けて無事入国となる。

十四世紀の中頃、ヨーロッパでペストが猛威を振るった時期があった。農村人口の四分の一、都市部では三分の一近くの人々が亡くなった。この時、東方貿易の玄関口であったベネチア共和国(今のイタリア北東部)では、ペストの感染者が乗船している船は入港させず、ペストの潜伏期間と考えられた四十日間(Quarantena giorni)、港の外に強制的に海上停泊させた。四十日後に健康なことが確認されたら入国を認めたのである。従って、Quarantineとは、ベネチア地方の言葉Quarantena(四十の意味)が語源である。ベネチア港沖に停泊していた船では、食料の補給はあったが、当時はペストの治療薬があったわけではないので、停泊中に船内で大勢の死者が出た。

今年の二月に三、七一一人の乗員乗客を乗せた大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号が横浜港で検疫の為に十四日間停泊させられた。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者が見つかった為に、コロナウイルスの潜伏期間と考えられる十四日間である。十四日後に症状がなく、PCR検査で陰性の人たちは入国を許可された。

十四世紀のヨーロッパのペストは、大勢の人々が亡くなると言う恐怖を身近で目にした人々に、その後の意識や生活様式に大きな影響を与えた。「神を信ずる者は救われる」と教えてきた宗教が何も人々を救えず、神父も同じように死んでいくのを見て、教会の権威も低下した。これが、後の宗教改革の布石となった。また、農業の担い手である農奴が大勢亡くなり、厳しい労働力不足が起こり、封建制度の崩壊を早めた。

今度のコロナ禍でも人々の意識が変化し、生活様式を変化させるだろう。人類は個々としては強くないが、人と人が力を合わせて協力して危機に対応し、獲物を捕ってきた。そのように進化してきた。ところが今回のコロナ禍は「三密を避けろ」と言う。現代は医学も発達しており、治療薬やワクチンもいずれ開発されるだろう。しかし、おそらく事態が収束しても、生活は元にはもどらないだろう。限られたスペースに大勢の人々が集まるイベントは、例えば結婚式、映画館、オリンピック、野球、相撲、忘年会、他にも色々あるが、変化せざるを得ないだろう。オンライン飲み会やテレワークなどすでにその萌芽は現れている。

♪ウイルスで知った 世界は狭い小屋

(赤タイ)

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