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幻の柿「元山」

虫めがね vol.49 No.6 (2023)

わが家の小さな庭に元山がんざんという一本の柿の木がある。樹齢は三〇年近く、今では大きく立派に生い茂っている。毎年一〇月頃になると黄褐色の果実が枝をしならせて一杯実る。果実が褐色に色づいた頃になると、近くの森からメジロやヒヨドリなどが飛んできて、わが家の元山を勝手に突いて楽しんでいる。

柿と言えば富有柿や次郎柿などが有名で果物屋さんの店頭に並んでいる。これらの柿は糖度が高くて甘く一般消費者には好まれている。ところが元山はそれほど甘くない。だが、何だかほんわかとした素朴な甘味で、さわやかな食感があり、わたしは好きである。ところがこの柿のややこしい所は、柿が甘いか渋いかは外見からは分からない。果実を包丁で二つに割って中に真っ黒いゴマ(黒い斑点)が入っていれば甘い。このゴマが無い実に当ると渋柿である。わたしはこれは樹木の枝の違いで、ある枝の実は甘くて、別の枝の実は渋いのかと思っていたが、どうもそうでもないらしい。柿が沢山実ったら近所の知人に配ることがあるが、渡す時に「この柿は甘いか渋いかは運ためしです」と予め説明して渡している。そうしないと、「こんな渋柿を持ってきて!」と恨まれる心配がある。

なぜこんなややこしい柿がわが家にあるのかと言うと、わが女房が生まれ育った実家(大分)の庭に元山の柿があって子どもの頃に良く食べていて美味しかった。それを思い出して義父に頼んで苗木を送ってもらったようである。わたしの実家(福岡)には富有柿の木があって子どものころ良く食べたのを覚えているが、元山の柿は食べたことがなかった。

インターネットで調べてみると、この柿は佐賀県原産で「伽羅柿(きゃらがき)」という不完全甘柿である。福岡県筑後地方では「元山」と呼ばれている。昭和天皇がお好みで佐賀県では皇室に献上したとあった。昭和天皇には柿を割ってゴマが無いのは渋柿なので食べないように言上する必要があるかもしれない。もっともお付きの人が皮を剝いて選別して天皇に差し上げたのだろうからそんな心配は要らないだろう。

また、これは江戸時代からある品種で、半野生の木のようで、果実は毎年生るわけではなく、良く実った年の翌年は実を結ばない。まったく気ままな樹である。

沢山採れた年には、東京や西宮に住んでいるわが娘たち家族にも宅配便で送っているが、子や孫たちは糖度の高い富有柿などに慣れているせいかあまり人気が無いようだ。

これから二〇年、三〇年先までもわが家の元山は、わたしが生きている間は楽しませてくれるよう願っている。

♪水をやる この木にいつか果が実る

(赤タイ)

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